サイコパスを操作する

サイコパシーの理解から対策まで

「反共感論」 -共感性と良心について-

 

私はこれまで、サイコパスには情動的共感性が欠けており、反社会的行動を学習する可能性が高くなるということを説明してきた。読者の中には「共感性の欠如=悪」という価値観を抱くようになった人もいるかもしれない。

 

それは大きな間違いである。たしかに情動的共感性の欠如は、冷酷な反社会的行動を行うのに必要な素質ではある。しかし、それ自体が悪なのではない。むしろ共感性の高さが原因で暴力が引き起こされる場合すらあるのだ。

 

今回はポール・ブルーム 著「反共感論」を参考に、共感性と良心の関係を見ていこう。著者は一貫して「情動的共感を道徳的指針とすることは間違いである」と論じている。

 

あらためて共感性について

共感の定義には色々ある。最もポピュラーな定義は「他者が経験していると自分が考えるあり方で、自らが世界を経験するようになること」だ。私がハンマーで自分の手を殴ろうとしているとき、あなたは眉一つ動かさず直視できるだろうか。おそらく、多くの人は顔をしかめてしまうだろう。

 

私自身がハンマーで殴ることを恐れていなくても、”もしあなたが私の立場なら” 恐ろしいと感じてしまう。このように、他者の経験を ”自分が考えるあり方で” 、情動を伴って経験されるものを特に「情動的共感」と呼ぶ。

 

一方で私は、あなたがハンマーで自分の手を殴ろうが気にしない。それでも、あなたの顔は恐怖で歪み、その行為を恐れているということは分かる。このように、情動を介さずに相手の感情を”他者視点で理解” するようなものを「認知的共感」と呼ぶ。

 

この例では、あなたはごくありふれた人間、私は情動的共感が欠如した人間として描いた。このタイミングで「どちらが良心的な人間だと思いますか?」と聞かれたら、多くの人は前者だと答えるかもしれない。 しかし意外なことに、道徳の指針として相応しいのはむしろ「認知的共感」の方なのだ。

 

 

情動的共感の問題

「中国では現在、11億9850万人が暮らしている。これが何を意味するかを感じるには、単純にあなたの独自性、重要性、複雑性、愛情を取り上げて119850万倍すればよい。そこに何か感じるだろうか?何も感じないはずだ。」 アニー・ディラード

 

 

情動的共感はスポットライトに喩えられる。

共感の対象となるのは一人か、せいぜい数人程度だ。それは温かく情緒的ではあるが、一方で共感の対象とはならなかった人々に対しては盲目的である。さらには数的感覚に欠け、共感の対象となった人に対してさえ、近視眼的な行動が引き起こされてしまう。

 

少し前に日本では麻疹が流行した。当時、親の多くは子供にワクチン接種を受けさせることを望んだだろう。だが大抵の子供は注射を嫌がるものだ。そこで泣け叫ぶ姿に共感し診療をやめてしまえば、命を落とすような事態になるかもしれない。

 

このように、他者の苦痛に囚われていると、苦痛に陥った人々を長期的に援助することが困難になる。というのも、長期的な目標を達成するためには短期的な苦痛を与えざるを得ない場合が多々あるからである。

 

このことは、医者の立場を考えてみるとより明らかだ。患者の苦痛に共感してしまう医者は狼狽しきって手術やセラピーどころではない。高い共感性は社会的に望ましい資質であると考えられがちだが、それは認知的共感に限られる。

 

 

また、情動的共感は自動的に起こるものであり、そこから引き出される主観的な言動は、共感の対象とならない人にとって”独善的”に映ることが多々ある。

 

私たちはネコを虐待している人を見ると、その人を罰したくなる感情に駆られる。それは「ネコに共感したからだ」と解釈できるが、よく考えてみると、”ネコ自身が” その人を罰することを望んでいるかなど、私たちには知る由もない。

 

つまり情動的共感は、認知的共感が「その人が実際に望んでいるであろう行動」を導くのとは対照的に、「相手の立場に置かれたときに”自分が”望むであろう行動」を自動的に引き起こそうとする。たまたま自分と相手の望みが一致すればよいのだが、多くの場合はそうではない。実際、そのようなケースは身の回りにありふれている。

 

 

そうはいっても、情動的共感が良心的な行動を導くと考える人も多いだろう。たとえ情動的共感がスポットライトのように範囲が狭く、数的感覚に欠けた近視眼的なものであれ、ヒトは他者の苦痛を自分事のように感じることで、良心的な行動を取るようになるのだ。と考えるかもしれない。これはまさに「道徳的社会化」である。

 

私は実際、サイコパスの病理を解説する上でこのような説明をした。すなわち「サイコパスは他者の苦痛を代理経験できないために、非道徳的な行動ですら合理的手段として学習できてしまう」というものだ。

 

しかしそれは、情動的共感をもつ人が善人でサイコパスが悪人であるという意味ではない。厳密に言えば、サイコパスは先天的な悪人ではなく「反社会的行動を手段として学習しやすい素質を先天的に有する人間」だ。そして、実際にそれを学習してしまった ”反社会的な” サイコパスにとって致命的な問題は、もはや「共感性の欠如」ではなく「自制心の欠如」にある。

 

 

さらには、情動的共感性が直接的に良心的行動を導くという論理には飛躍がある。自分が愛情を注いでいる娘が苦しんでいるとき、あなたは彼女の苦痛に共感して彼女を抱き上げ、苦痛を追い払おうとするだろう。たしかにそれにより自分の気分もよくなるので、「情動的共感が良心的行動を導いた!」と考えたくもなる。

 

しかし、単に代理経験している自分の苦痛を追い払いたいだけなら、泣き叫ぶ娘を放って散歩に出かければよい。 そうしないのは、あなたに純粋な利他心があるからだ。すなわち情動的共感は、情動に訴えかけることによって、より直感的に誰かが苦しんでいることを私たちに教えてくれる。情動的共感は親切心を導くのではなく、むしろ既存の親切心を助長する形で機能するのだ。

 

逆に、親切心がなく他者の苦痛に対して快楽を抱くサディストにとって、情動的共感性は嗜虐心を助長する形で機能する。勘違いされるところだが、情動的共感性が欠如したサイコパスにそのような趣味はない。ただ泣き声を煩わしく感じるだけである。

 

次に、路上でホームレスが物乞いをしていた場合を考えてみよう。人はしばしば、そのような姿を目にすると反対側の道を通りたがる。こうした行動は、共感による苦痛を利己的に回避した結果といえる。

 

時にサイコパスは、健常者よりも積極的に人助けをする場合がある。というのも、彼らは他者の苦しみを代理経験せず、ただ相手の感情や求めているものを認知的共感のみに頼って明晰に理解するためである。そこから引き出された行動は純粋な親切心の顕れであるかもしれないし、将来的な利益を見込んでのことかもしれない。

 

 

本書の主張をまとめると、主観的かつ不公平な道徳的指針が不適切なのは自明なので、そのような性質をもつ情動的共感ではなく、理性的な認知的共感によって他者を気遣うべきである というものだ。

 

 その意味において、サイコパスは完璧な聖人にも完璧な悪魔にもなりうる。しかしサイコパスは一般に、情動的共感が欠如した人間ではなく「反社会性パーソナリティ障害」と同列に認識されている。

 

最近、これに関して興味深い議論を見かけた。それは次のようなものである。

サイコパスはいずれ”発達障害”として分類される。そしてこれまでの発達障害に関する事例を鑑みるに、サイコパスへの差別も同様に非難されるべき問題ではないか?」

サイコパスの根本的原因には遺伝的要因が関与する。そのため、サイコパスによる犯罪には免責の余地があるのではないか?」

 

 

サイコパスはマイノリティであり、マイノリティの差別は許されるべきではない。また、彼らを犯罪行為に駆り立てるような遺伝的負因を有するのなら、彼らの犯罪は完全な自由意志ではなく、ある程度の決定論的要素を孕んでいる。したがって、差別を許すべきではないし、免責の余地はある。

 

 

直感的には、この論理は理に適っているように聞こえるかもしれない。しかし、それこそがサイコパスに対する情動的共感がもたらす道徳観である。

 

あなた自身がこの問題を考えるにあたって今回の内容を実践するなら、立てるべき問いは「あなたがサイコパスの立場なら望むであろうことは何か。」ではなく、「サイコパスが実際に望むであろうことは何か。」である。それと同時に、共感の対象から外れた人々 のことも考慮すべきだろう。

 

 

参考

 

反共感論―社会はいかに判断を誤るか

反共感論―社会はいかに判断を誤るか

 

 

 

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”サイコパスの神経学的仮説”

 

この章ではついに、「サイコパスはなぜ情動障害をもち、道具的攻撃性を示すのか」を説明する。この章は難しい上に長いので、はじめに簡単な結論を示しておく。

 

サイコパスは遺伝子異常によって、不快な刺激に対する扁桃体の反応性が低下するため反社会的行動を手段として学習し、社会化が阻害される。

 

しかし、この説明は簡単すぎて誤解を招くうえ、因果関係が明らかではない。なぜ扁桃体の異常が道具的攻撃性の学習につながるのだろう。

 

これより先では、この点について詳細な説明をしていく。

 

 

統合的情動システム(IES)モデル

そもそも情動とは何か。

それは脳内でどのように生まれ、処理されるのだろう。

 

扁桃体は恐怖などの情動を司る」という説明を聞いたことがあるかもしれない。しかし、扁桃体が「恐怖情動を生成→処理」という全てを行うはずもなく、複数の領域が互いに関与している。現時点でもっとも有力な情動モデルは「統合的情動システム(IES)モデル」と呼ばれるものである。これを次に示す。

 

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この図を落ち着いて眺めてみると、①、②、③のルートが描かれている。

まずは①のルートを見てみよう。

 

SCは「感覚連合皮質」であり、あらゆる五感情報がここで統合される。

 

あなたが恐怖を経験するためには、まず恐ろしいものを「見たり」「聞いたり」する必要がある。そのような五感情報がSCに集積する。しかし、この時点で”恐ろしい”という感情は生まれていない。ただ単純に、これから先で「恐怖」と認識されるような何かを「見たり」「聞いたり」しただけである。

 

続いて、SCの五感情報はBLAとCeNに送られる。

重要なことに、扁桃体は大きく「外側基底核(BLA)」「中心核(CeN)」に分けられる。①のルートにおいて、BLAおよびCeNは、SCと双方向の連絡をとっている。

 

そのため扁桃体「感覚形成の調節機能」をもつと考えられる。つまり、扁桃体に送られた五感情報はここでようやく”恐ろしい刺激”というラベルが貼られ、処理が開始する(詳しくは後述)。

 

 

次に②のルートを見てみよう。

①からやってきた感覚情報がCeNに送られ、②のルートでURが引き起こされている。

 

URとは「無条件反応」のことであり、恐怖でいえば「すくみ反応」や「心拍数の増加」などがそうである。ここでも省略されているが、脳幹や視床下部という領域がURを引き起こす。

 

いわばCeNは「”恐ろしいもの”を見たので、心拍数を上げてください」という命令を脳幹などに送る。このような恐怖の感覚情報に基づいた身体状態の変化こそ「恐怖情動」と呼ばれるものだ。

 

恐怖情動は発汗や心拍数増加などの”身体状態の変化”を伴う。これを知覚したとき、僕らは「恐怖の感情」(=”恐ろしい”というあの感じ) を経験する。

 

このルートからは、CeNが「内臓機能を調節する機能」をもつと考えられる。

 

 

最後に③のルートを見てみよう。

vmFCとは「腹内側前頭前皮質」のことで、おなじみ「内側部」の一部だ。

 

ある目的の為に行動する「目的志向行動」には、これらの領域が関与する。そして扁桃体のうちBLAは、vmFCと直接の連絡をもっている。したがってこのルートからは、「BLAが目的志向行動に影響を及ぼす」ということが分かる。

 

 

まとめると、扁桃体はBLAとCeNに分けられ、「感覚形成の調節」にはBLAとCeNが、「内臓機能の調節」にはCeNが、「目的志向行動」にはBLAが直接関与する。

 

 

扁桃体の学習機能

「嫌悪条件づけ」とは、条件刺激(CS)無条件反応(UR)を引き出すように学習する過程のことだ。具体例で考えてみよう。

 

マウスに電気ショックを与えると、マウスはその場から逃げようとする。一方、ブザー音の直後に電気ショックを与えると、そのマウスはブザー音を聞いただけで身体をこわばらせ「すくみ反応」を示すようになる。

 

このように、本来「恐怖」とは無関係な刺激(条件刺激)によって「恐怖」の反応(無条件反応)を引き出すように学習させることを「嫌悪条件づけ」と呼ぶ。

 

ここでブザー音は条件刺激(CS)電気ショックが無条件刺激(US)逃避行動は無条件反応(UR)である。(すくみ反応については後述)

 

 

さて、扁桃体は嫌悪条件づけにおいて3つ連関を形成する。すなわち、

Ⅰ:CS - UR連関にはCeN

Ⅱ:CS - 感情表象連関にはBLA

Ⅲ:CS - US連関にはBLAが必要である。

 

 

ここでもう一度、IESモデルを見てみよう。

 

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CSの五感情報はSCに集積し、①のルートでBLAあるいはCeNに情報が伝達され、最終的にURが起こる。このうち、「CS→SC→CeN→UR」「CS-UR連関」による条件づけである。

 

たとえばお腹の空いた犬は、エサを提示されるとヨダレを垂らす。そしてエサの提示と同時にベルの音を聴かせると、犬はベルの音(CS)を聴いただけでヨダレを垂らす(UR)ようになる。これが、CeNによるCS-UR連関形成である。

 

ちなみにこの連関は扁桃体を介して形成されるものの、連関自体は島に蓄積すると考えられている。つまり、一度CS-UR連関を形成してしまえば(ベルの音で唾液が分泌されるよう条件づければ)、その後に扁桃体を破壊しても条件づけは維持される。

 

 

一方、「CS→SC→BLA→CeN→UR」のルートでは、BLAの登場により「CS - 感情表象連関」が可能となる。感情表象とは、刺激に対する情動状態のラベル(恐怖や報酬期待など)のことだ。

 

平たく言うと、条件づけされたマウスは「ブザー音 = 恐ろしいもの」と認識していたので「すくみ反応」を示したのである。通常、電気ショックに対するマウスのURは「逃避反応」なので、CS-URとCS-感情表象は異なる反応を引き出すという点でハッキリと弁別できる。

 

したがって、マウスがブザー音によって逃避反応を示せばⅠのルートで、すくみ反応を示せばⅡのルートで条件づけが行われたことになる。

 

実際、BLAを損傷したマウスはCS-感情表象連関が形成されず、それに関与する特定の課題において障害を示す。一方、CS-UR連関は正常のままである。

 

 

サイコパスは有毒ガスの臭い(US)と中立顔(CS)を対提示した後でも、CSによる皮膚電気反応が起こらない。

 

これは、CS-UR連関あるいはCS-感情表象連関の機能不全なので、サイコパス扁桃体の機能不全を有することを示している。

 

また悲しみの表情想像上の恐怖場面恐怖予測情動を喚起する音声などのCSに対しても自律神経の反応性が低い。

 

このあたりの嫌悪条件づけ理論については、今後詳しく紹介していこう。

 

 

扁桃体と刺激選択バイアス(注意)

”注意”とは、複数の刺激が存在するときに起こる、互いの表象をめぐる競争の結果であると考えられている。

 

たとえば、今ここにAとBの絵があるとしよう。実験者から「Aの絵を見てください」と指示された場合、あなたはAに注意を向けることができる。これは、課題要求に応じてAの表象を強化したからである。このように、課題要求は感覚表象を強化するトップダウンの影響として注意に関与する。

 

一方、課題要求がなくともAの絵それ自体が情動を喚起するものである場合には、中立的なBの絵よりもAに自然と注意を向けてしまう。このように、”刺激の強さ”は感覚表象を強化するボトムアップの影響として注意に関与する。

 

 したがって、複数ある刺激のうち、どの刺激に注意が向けられるかはトップダウンボトムアップの二つの影響により決定される。

 

 

ここで、情動と注意に関するIESモデルを見てみよう。

 

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側頭皮質には2つのドット(感覚表象)が存在し、それらは互いに競合状態(-)にある。この競合に勝利した方の表象に注意が向けられる。

 

課題要求(左のドットを見ろという指示)はACC(前帯状皮質)DLPFC(背外側前頭前皮質)で処理され、側頭皮質において左のドットに対応する表象を強化するようなトップダウンの影響を及ぼし、左のドットが競合に有利となる状態をつくっている。

 

一方で扁桃体は、右のドットに対してボトムアップの影響を及ぼし、対応する表象が強化されている。つまり、右のドットは情動的な刺激を表している。

 

この図では最終的に左のドットが競合に勝ち、課題要求された反応が運動系により引き起こされたことが分かる。

 

 

具体的にイメージするため、次の課題を行ってみよう。

 

課題:下の絵の中から真顔を見つけたら、次の文を読んでください。

 

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右下以外のヘンテコな絵は妨害刺激である。これらは真顔と比べて”刺激の強い”もの、すなわち扁桃体からのボトムアップ的な影響を受け、感覚表象が強化されるような絵である(右のドットと呼んでいたもの)。

 

一方、課題要求は真顔に注意を向けることだったので、あなたのACCとDLPFCは真顔の感覚表象をトップダウン的に強化し、真顔の表象を他の絵との競合に勝利させようとする(左のドットを競合に勝たせ、要求された反応を引き出す)。

 

それに成功したあなたは、課題要求に対応する反応として運動系を用いて画面をスクロールし、今この文章を読んでいるのである。

 

 

さて、この例からは扁桃体「情動的な刺激の表象を強化する(注意を向けやすくする)機能」を持つことも分かった。

 

実際、サイコパスは情動的な刺激によるボトムアップの影響を受けにくいことが示されており、このことは扁桃体機能不全仮説を支持する。

 

 

扁桃体と道具的学習

 「受動回避学習」と呼ばれる課題がある。受動回避学習では、ある刺激に反応すれば報酬が得られ、別の刺激に反応すれば罰を受ける。(報酬の”ために”反応したり、罰を回避する”ために”反応しない、という道具的な学習)

 

たとえば明室と暗室を用意しておき、マウスが暗室に入ると電気ショックを与える。そのうちマウスは「暗室=不快なもの」というCS-感情表象連関を形成し、暗室へ入ることを受動的に回避する。

 

このように、ある刺激に対して”良い”あるいは”悪い”というラベルを貼るにはBLAが必要であり、扁桃体損傷は受動回避学習を阻害する。

 

 

一方で、別の道具的学習に「条件付き学習課題」がある。条件付き学習課題では、ある特定の刺激に対して特定の運動反応を実行する学習である(たとえば、緑の光が点灯すれば左のボタン、赤の光が点灯すれば右のボタンを押す、といった風に)。

 

この課題では、受動回避学習とは対照的に「緑の光=”良い”」や「赤い光=”悪い”」などのラベルは貼られない。なぜなら、報酬を得るか罰を受けるかはその人の”反応”によって決まるからである。

 

この課題では、「緑の光→左のボタンを押す」「赤い光→右のボタンを押す」というように、「刺激-反応連関」と呼ばれる扁桃体を必要としない連関が形成される。したがって扁桃体損傷はこの課題を阻害しない。

 

 

扁桃体機能不全仮説をもとに考えた場合、このようなデータから、サイコパスは「受動回避学習」で障害を示し「条件付き学習課題」では障害を示さないと予想できる。そして実際、そのような結果が得られている。

 

ここまでが、サイコパスの情動障害と情動学習障害の説明となる。最後に、現実に即した形でサイコパスの道具的攻撃性を説明してみよう。

 

扁桃体機能不全仮説:道徳的社会化

IESモデルを用いて暴力を抑制するメカニズムを示すと、次のようになる。

 

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一般に、他者の苦痛や恐怖などの嫌悪刺激(US)を知覚すると「こわばり、逃避行動、反応的攻撃+覚醒度の上昇(UR)が生じる(戦争の様子を想像してみるといい。確かにこのような反応が起こりそうだ)。

 

さらに健常者の場合、「道徳違反(CS)と他者の苦痛(US)の連関」が可能であり、道徳違反をみたり考えたりするとURが起こるように条件づけられる。さらには「道徳違反="悪”」というCS-感情表象連関も道徳観の形成に関与する。

 

これが、健常者が暴力を控えるメカニズム(道徳的社会化)である。しかし、扁桃体機能不全を有するサイコパスはこれらの嫌悪条件づけが起こらず道徳的社会化を経験しないため、反社会的行動が抑制されない。

 

 

ちなみに反社会的行動をとった子供に体罰を行う家庭では、その意図に反して「身体的苦痛(US)と反社会的行動(CS)との連関」は形成されない。むしろ「身体的苦痛(US)と体罰を行う親(CS)との連関」が形成されてしまう。

 

非行少年は体罰を受けるかもしれないが、それによって反社会的行動は抑制されない。むしろ「親-体罰-不快」という連関が形成されるだけである。(要するに嫌われる)

 

 

反社会的行動を行うときに無条件嫌悪刺激(US)となるのは「犠牲者の苦痛」ある。つまり健常者は、反社会的行動を企図したり実行したとき、他者の苦痛によって”罰せられる”のだ(罪悪感)。

 

しかし、サイコパスでは「他者の悲しみや恐怖の表情」が嫌悪刺激として作用しない。さらには幼少期から表情認知能力に障害が見られる。

 

反社会性を低める方法のひとつは「犠牲者に対する共感性を高めること」であるが、養育者が共感性をうまく引き出すような方法をとっても、サイコパスの情動的機能不全を示す子供に対しては、そうした効果がみられない。

 

これが、サイコパスは”治らない”と言われる所以である。

 

 

扁桃体機能不全仮説の限界

本書の考えをまとめると、次のようになる。

 

サイコパスは、扁桃体によってなされる感情表象の活性化が障害されているために、反応性あるいは学習が低下している。感情表象は、他者の恐怖や嫌悪によって活性化される。

 

これらの表象に対する反応性が低下することにより道徳的社会化が妨げられ、結果として、自分の目標達成の手段として反社会的行動を学習する危険性の高い者となる。

 

この仮説により「良心の欠如」はもちろん、「共感性の欠如」や「罪悪感の欠如」「恐怖・不安の欠如」などの”情動障害”と呼ばれる臨床的特徴、また道具的攻撃性の神経メカニズムを合理的に説明できる。

 

 

しかし次のようなデータから、この仮説をある程度”限定”する必要性が示される。

 

CS-感情表象連関において、感情表象は大きく分けて”ポジティブ””ネガティブ”の2通りがある。実は、サイコパスは否定的な刺激(他者の苦痛や恐怖)について反応性の低下を示すものの、①肯定的な刺激の処理については障害をそれほど示さない。

 

そして、自然な表情をした人の写真を提示し、その人が信頼できるかどうか判断するように求めた課題では、健常者は信頼できない人と判断した顔に対して扁桃体の活性が高まることが示されている。

 

さらに、目の周辺だけの情報に基づいてその人の複雑な社会的情動について判断を求めた課題でも、遂行中に扁桃体が活性化されることが示された。

 

扁桃体損傷がある患者はこれらの課題をこなすことができないにもかかわらず、サイコパス②「信頼性」と「社会認知」の課題で障害を示さない。

 

つまり、サイコパス扁桃体機能のすべてが障害されているわけではなく、「刺激-罰連関」の形成が選択的に障害されていることが示唆される。

 

したがって、サイコパスの根本的原因は遺伝子異常であり、特定の神経伝達物質の阻害が刺激-罰連関形成の機能を特異的に低下させていると予想できる。

 

 

どの神経伝達物質が機能不全なのかは明らかではない。可能性として、ストレス/脅威刺激に対するノルアドレナリンの反応が阻害されていることが示唆される。

 

その根拠として、ノルアドレナリン嫌悪手がかりによって意思決定を調節していることが示されている。(罰と連関した刺激を回避するかどうかは、ノルアドレナリン作動性ニューロンによって調節されるということ)

 

またノルアドレナリン悲しみ表情の認知に影響を与えること、反社会的行動/行為障害に関連することがこの仮説をさらに支持する。

 

 

Question

  • 本章で紹介した扁桃体の機能はどのようなものか。

 

答え:IESモデルからは「感覚形成の調節(SCとの連絡)」「内臓機能の調節(脳幹との連絡)」「目的志向行動の調節(vm FCとの連絡)」の機能をもつことが示唆され、条件づけに関しては「CS-US連関(BLA)」「CS-感情表象連関(BLA)」「CS-UR連関(CeN,BLA)」の形成に必要。注意に関しては「情動刺激に対するボトムアップの影響」をもつ。

 

このうち、BLAによる「CS-感情表象連関」、特に「刺激-罰連関」の形成は道具的学習と密接にかかわり、サイコパスが顕著な障害を示す学習機能のひとつである。

 

 

答え:ある遺伝子異常が扁桃体「刺激-罰連関形成」を阻害する。これにより、たとえ自分の反社会的行動(CS)によって他者の苦痛(US)が生じても「CS-US連関」や特に「CS-感情表象連関」は形成されず、嫌悪条件づけが起こらない。すなわち反社会的行動の企図(CS)は「こわばり、回避反応」などのURを引き起こさず、反社会的行動が抑制されない。したがって、目的を達成するための手段として反社会的行動を学習してしまう。

 

  • IESモデルを用いると、良心や罪悪感はどのように説明できるか。

 

答え:良心は道徳的社会化によって形成される。道徳的社会化には嫌悪条件づけが必要であり、健常者では”悪いこと”を企図したり実行するとUS(被害者の苦痛)や感情表象(この行為は”悪”である)、不快なUR(こわばり、回避反応、覚醒度の上昇)が引き出されることを学習し、道徳違反が抑制・回避される。

 

罪悪感とは、”学習された”CS(道徳違反)を行うことで、上記のUSおよび感情表象、そしてURが引き出された情動状態を指す。より厳密には、その情動状態を”知覚”したときの「感情」が罪悪感であると考えられる。サイコパスは”学習していない”のでCSによって罪悪感は生じない。

 

「悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ」というジェームズ=ランゲ説に則っていえば、罪悪感を抱くから”善人”なのではない、”善人”だから罪悪感を抱くのだ。つまり消極的な(非サイコパスという意味で)善人とは、道徳違反が嫌悪条件づけにより抑制されている人である。

 

 

 

答え:ほぼあり得ない。サイコパスに関与する扁桃体の機能不全は遺伝子異常が根本的原因であると考えられる。つまり、サイコパスの発症リスクはある程度遺伝的に定められている。また後天的に扁桃体を損傷しても、それまでに蓄積されたCS-US連関やCS-感情表象連関は島に保存されているため、道徳違反が”悪”であるという認識を失ったり、非道徳的に振る舞うといったことは起こらない。

 

しかしながら、関連遺伝子の後天的遺伝子修飾や環境要因による扁桃体の異常がサイコパスの発症を引き起こさないわけではない。原理的には、早い段階(連関形成以前)で扁桃体の特定の部分を損傷すれば後天的サイコパスになりうる。また、島の連関を”消去”することが可能かもしれない。

 

 

 

答え:遺伝子異常により情動障害を有するものの、恵まれた環境や優れた知性をもち、ある目的を達成しようとする際、反社会的行動以外の手段をより多く学習しているサイコパスのこと。なぜ他の手段を取るのかについては、刺激-報酬連関形成による社会化が功を奏したのだと思われる。つまり、手っ取り早く反社会的行動に訴えるよりも、長期的にみれば向社会的な手段で目的を達成する方が自身にとっても合理的であると学習したサイコパスと考えられる。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-

 

 

 

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”反応的攻撃の認知神経学的仮説”

 

これまで反応的攻撃と道具的攻撃の区別の重要性を指摘してきたが、「そのような区別が本当に可能なのか」という疑いを払拭するためにも、これらが異なる神経メカニズムによって引き起こされるということを説明しておくべきだろう。

 

今回は「反応的攻撃のメカニズム」を解説し、次回は「道具的攻撃のメカニズム」を解説する。これを完全にマスターすれば、よりサイコパスの脳についてより理解を深められるだろう。

 

 

「反応的攻撃」は、哺乳類が脅威に面した際に示す究極の反応だ。

その反応には段階があり、脅威に対する距離によって段階が調節されている。

 

  • レベル1:脅威からの距離が遠い→ すくみ反応
  • レベル2:脅威からの距離が近い→ 逃走反応
  • レベル3:逃げられないほど近い→ 爆発的な攻撃(反応的攻撃)

 

通常、このような反応は脅威に対する適切な反応といえる。(サーベルタイガーに襲われたときに逃げたり攻撃しなければ、そのような種は滅んでしまうのだから)

 

しかし現代のように、さほど強い脅威がないような環境でも反応的攻撃が表出されてしまうと、それは不適応とみなされ、精神科のもとを訪ねる破目になってしまう。

 

たとえば、路上で肩がぶつかっただけで反応的攻撃を示すのは適切とはいえない。

 

 

このような爆発的な攻撃は、「基本脅威回路」のコントロールができなくなっていることに起因すると考えられる。では「基本脅威回路」とは何なのか、ということについて具体的に見ていこう。

 

 

基本構造

 

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まずは、横軸が脅威レベル(TL)、縦軸が活性水準(ABTCのグラフに注目しよう。これを見ると、脅威レベルが上昇するにしたがって活性水準が上昇し、それに応じた反応(すくみ、逃避、反応的攻撃) が引き出されるようになっていることが分かる。

 

その反応を引き出すうえで”最後の関門”となるのは「水道周囲灰白質(PAG)」であり、脅威シグナルは扁桃体を開始点として、視床下部を介してPAGへ伝達されている。

 

そのため、PAGに損傷がある場合、たとえ脅威刺激を扁桃体が感知しても”最後の関門”が崩壊しているので各反応は引き出されない。
 

 

次に、視床下部に注目しよう。

視床下部から下垂体へCRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)が放出され、次に下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が放出されている。

 

その結果、副腎からのコルチゾールの放出が増加しているが、この経路は視床下部-下垂体-副腎(HPA)経路」と呼ばれており、この経路はストレス/脅威に応答してコルチゾールの分泌を促すことで自律神経系を亢進し、逃げたり攻撃するのに必要な身体の状態を作り出す。(逃走・闘争反応)

 

最後に、扁桃体に注目しよう。

扁桃体から青斑核への投射は、最終的にノルアドレナリンの分泌を促す。ノルアドレナリンコルチゾールと同様に、逃走・闘争反応に関与する神経伝達物質である。

 

 

この脅威基本回路を調節しているのは、図の左上にある前頭前皮質「眼窩部」「内側部」などである。この制御システムが障害されると、脅威基本回路の調節ができなくなる。(”など”としたのは、背外側部や腹内側部も調節に関与していることが分かっているから)

 

実際、反応的攻撃性を顕著に示す患者は「眼窩部」や「内側部」に障害がみられたことを思い出そう。(前回を参照)

 

ここで重要な問いは、「眼窩部や内側部は、どのようにして基本脅威回路を調節しているのか?」というものだ。

 

 

基本構造の制御

眼窩部や内側部(そして腹内側部)は、少なくとも2つのプロセスで基本脅威回路の調節に関与する。

 

 

第一に、期待報酬を算出し、その期待通りであったかを評価する。

 

これまでの生活の中で、欲求不満に陥りイライラが爆発したために、反応的攻撃(八つ当たりや暴言も含め) が引き出された経験は誰しもあるだろう。

 

僕らは期待する報酬を得るために行動したにもかかわらず、それが得られなかったときに欲求不満となる。それが長く続くと、ついには反応的攻撃を起こしてしまうのだ。

 

この欲求不満を解消すべく機能するのが「眼窩部」「内側部」「腹外側部」であり、これらのシステムが障害されると、より欲求不満に陥りやすくなる。

 

 

第二に、社会的な認知に関与する。

 

「社会的応答逆転システム」と呼ばれるものがある。

このシステムは、次の2つの要素によって活性化される。

 

①社会的嫌悪刺激(とくに相手の怒り

社会的に認められない状況 によって活性化される。

 

たとえば、会社で上司にパワハラをされたときを考えよう。あなたはその上司を今すぐブン殴ってやると思うだろうが、そうすれば相手の「怒り」を買うことになるし、そのような行為は「社会的に認められない」。

 

このようなとき「社会的応答逆転システム」が活性化する。そしてあなたは「ブン殴る」という”応答””逆転”し、上司のご機嫌を取ったり、自分のデスクを蹴り飛ばす。

 

とくに眼窩部の外側、すなわち「外側眼窩前頭前皮質(BA47)」は、上司の怒りを「予期」したり「目にする」と活性化し、さらにBA47が「社会的応答逆転システム」を活性化し、反応的攻撃を調節する。

 

このモデルに合致して、反応的攻撃性の高い患者群では、BA47の機能が特に損なわれていることが明らかになった。彼らは上司の怒りを予期してもBA47が活性化しないため(=機能不全)、社会的応答逆転が引き起こされず、不適切な反応的攻撃性を示す。

 

 

 

ここで、反応的攻撃のリスク増大となる4つの可能性をおさらいしておこう。

 

環境による活性水準の上昇

反応的攻撃が起こるかどうかは、その時の脅威刺激レベルだけでなく、過去に受けた脅威レベルも関与する。

 

動物実験から、過去に脅威を受けたことによって”安静時の”基本脅威回路の活性水準が上昇し、反応的攻撃を引き起こしやすくなることが分かっている。

 

50℃の水と0℃の水では、どちらが沸騰しやすいだろうか?

僕らの基本脅威回路は、活性水準が1になると反応的攻撃を引き起こす(沸騰する)と仮定しよう。安静時の活性水準が0.5の人と0の人では、明らかに0.5の人の方が反応的攻撃を引き起こしやすくなるのは明らかだ。

 

この”安静時の”活性水準の上昇は、過去のストレスによって起こる。たとえば出生前ストレス(妊婦の喫煙やアルコール摂取など)、幼児期の愛情剥離慢性ストレス(過労など)、虐待、トラウマである。

 

これらが実際に及ぼす脳の影響は、ノルアドレナリンの放出増加からコルチゾール受容体の反応性増大、扁桃体の過活動までさまざまである。しかしこれは少し難しい話なので、別の機会に説明しよう。

 

遺伝的な活性水準の上昇

先ほど、過去ののストレスは基本脅威回路の安静時の活性水準を上昇させる「環境要因」であることを論じた。

 

しかし、このような変化に遺伝子が関与していても不思議ではない。

実際、うつや不安障害の人では扁桃体の過活動がみられ、これに遺伝的負因があるということには妥当な根拠がある。そして扁桃体は基本脅威回路の根幹である。

 

 

眼窩/内側部の障害による制御不良

これまで説明してきたように、眼窩部や内側部は基本脅威回路の「調節」を担っており、その機能が損なわれると反応的攻撃のリスクが増大する。

 

この制御システムの破綻に関連すると思われる精神疾患「間欠性爆発性障害/衝動・攻撃性障害」および「小児性双極性障害である。

 

 

セロトニン系の異常による制御不良

セロトニンは反応的攻撃性の調節に関わると考えられている。一般に、セロトニン受容体の活性を高めると攻撃性は下がり、活性を低めると攻撃性は上がる。

 

ネコやラットのセロトニンニューロンを破壊すると攻撃性が増大する。ヒトにおいても、セロトニンレベルの低さは反応的攻撃性に結び付くということが一貫して報告されている。

 

 

最後に、今回の話を「因果モデル」として図に表すと、次のようになる。

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これを頭に叩き込めば、反応的攻撃マスターになれるだろう(?)

 

 

Question

  • 基本脅威回路の図を参考に、扁桃体の損傷がどのような異常をもたらすかを説明せよ。また、PAGに損傷をもつ場合はどうか。

 

答え:扁桃体の損傷によって脅威シグナルがPAGに伝達されないため、反応的攻撃が引き起こされなくなる。また視床下部を介したコルチゾールの分泌、青斑核を介したノルアドレナリンの放出も阻害されるため、ストレス反応(自律神経系の亢進)も減弱すると考えられる。このような人は常に穏やかで、あらゆる脅威に対して冷静さを失わないだろう。

 

PAGの損傷では反応的攻撃が選択的に障害されるものの、ストレス反応は障害されない。このような人は、イライラしても暴力的にはならないタイプだろう。(どのようにして解消するのかは、前頭前皮質の機能の見せ所だ。)

 

 

  • 「眼窩部」や「内側部」は、二つのプロセスで基本脅威回路の調節に関与する。それぞれ説明せよ。

 

答え:第一に、期待報酬の算出および得られた結果が期待通りであったかを評価する。それが期待通りでなかったとき、欲求不満に陥り反応的攻撃が起こってしまうが、ここでも「眼窩部」や「内側部」は欲求不満を解消すべく機能する。

 

第二に、相手の「怒り」を予期することなどで活性化し、「社会的応答逆転システム」を活性化させることによって反応的攻撃を調節する。

 

 

  • 基本脅威回路のモデルを参考に、反応的攻撃性のリスクを増大させる可能性を4つ挙げよ。また今回の章を通して、日常生活で反応的攻撃を表出しないようにできることは何か。

 

答え:①環境要因による活性水準の上昇 ②遺伝的要因による活性水準の上昇 ③眼窩部、内側部の障害による調節機能の不全 ④セロトニン系異常による調節機能の不全 である。

 

日常生活においては、①期待報酬を高く見積もり過ぎないこと ②欲求不満に陥ったとき、適切な応答逆転の手段を身に付けること ③ストレスマネジメントをして活性水準を下げておくこと ④妊娠中の喫煙やアルコールの摂取を控え、子供に虐待やネグレクトをしないこと ⑤セロトニンの前駆体であるトリプトファンサプリメントを摂取すること ⑥瞑想によって前頭前皮質の制御機能を高め、扁桃体の反応性を低める などが挙げられる。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-

 

 

 

 

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”サイコパスの神経学的仮説”

 

今後の章では、神経科学の観点から解説をしていく。

 

とくに今回は、サイコパスの情動・認知的障害が「脳機能のどのような異常によって生じるのか」という ”仮説” について触れていく。

 

 

とはいえ、結局はどれも”仮説”に過ぎず、完全に実証されているわけではない。

 

これから「左半球活性化仮説」「前頭葉機能不全仮説」「ソマティックマーカー仮説」を紹介していくが、それだけではサイコパスの全てを説明できないということには注意しよう。

 

さらにネタバレをすると、本書で主張されるメインの仮説は扁桃体機能不全仮説」なので、これから紹介するものについては問題点を意識して読めばよい。

 

 

左半球活性化仮説

ロバート・ヘアらは、サイコパス右視野に単語を提示すると、カテゴリーの識別が著しく困難になり、逆に左視野に提示した場合にはむしろ健常者より成績が良いことを発見した。

 

また似たような実験で、サイコパス右耳に単語が提示されると、その単語が何であったかを適切に答えられなかったが、左耳ではそうではないことが分かった。

 

ちなみに、右視野右耳は脳の「左半球」に繋がっている。

 

 

こうした実験から「左半球活性化(LHA)仮説」が発展した。

この仮説によると、サイコパスは上記の実験のように、左半球が選択的かつ特異的に活性化された状況下のみにおいて、情報処理全般(左半球に関与しないものでも)が損なわれるとする。

 

しかし、左半球を十分に活性化させると大脳皮質(情報処理全般を担う領域)の機能が損なわれる理由がよく分からない。そして左半球の活性化を定量化する方法も明確ではない。そもそも、日常生活において左半球が選択的に活性化するような状況は稀だと思われる。

 

というわけで、このモデルの有用性は現在のところ限定的である。

 

 

前頭葉機能不全仮説

前頭葉の機能不全は「遂行機能不全」をもたらす。

「遂行機能」は「目標を立て、計画を立て、実行し、効率化する機能」のことで、実行機能とも呼ばれる。たとえば遂行機能不全をもつADHDは一般に、計画通りに物事を進めるのが困難である。

 

遂行機能不全は長い間、反社会的行動と関連付けられてきた。

そうした背景から、サイコパス、より一般には反社会的行動が、前頭葉の機能不全に由来すると考えられるようになった。この仮説は、次の3種類のデータから導かれる。

 

前頭前皮質後天的な外傷を受けた患者のデータ

反社会的行動を示す人の神経生理学研究データ

反社会的行動を示す人の神経画像研究データ

 

 

①について。

前頭前皮質に外傷を受けた患者は「反応的攻撃性」を顕著に示すようになることが分かっている。

 

前頭前皮質は大きく、「背外側」「内側」「眼窩」の3つに分けられる。

 

どれも文字通りで、背外側部(Dorsolateral)はおでこの辺りの外側に分布し、内側部(Medial)はその内側を構成する(そのため、この図では見えない)

眼窩部(Orbitofrontal)はこの2つよりも下の眼窩(眼球ソケットのような頭蓋骨の穴)の内奥に分布する。

 

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さて、攻撃性の増加を示した患者の外傷部位を分析してみると、攻撃を調節しているのは「眼窩部」および「内側部」であって、背外側部ではないことが分かった。

 

 

このような結果から言えることは、第一に「眼窩部」に後天的外傷をもつ患者は、たとえそれが幼少期からでも、示す症状はサイコパスとは本質的に異なるということだ。(彼らは道具的ではなく、反応的攻撃性を顕著に示したことを思い出そう。)

 

このことは、サイコパス前頭葉機能不全仮説によって説明することが誤りだと立証するものではないが、より詳細な研究が必要であることを示している。

 

そして第二に、眼窩部・内側部の障害が反社会的行動の危険性を高めるということが強く示唆される。これについては次回で詳しく説明する。

 

 

②(反社会的行動をとる人の神経性学的研究データ) について。

この節のはじめで、前頭葉の機能不全が「遂行機能不全」をもたらし、それが反社会的行動に結び付くということに触れた。

 

しかし、これらのデータは前頭前皮質「機能局在」「遂行機能の諸要素」を無視したものが多かった。つまり前頭前皮質の下位区分(背外側、内側、眼窩)を考慮せず、ウィスコンシンカード分類検査など「背外側部」に関連する遂行機能検査を用いた研究が多く行われていた。

 

前にも述べたように、反応的攻撃性を調節するのは「眼窩部」と「内側部」なので、このことは問題である。

 

 

それでは、反社会的行動をとる人々に背側部と関連する遂行機能不全がみられることを、どう説明すればよいだろうか? 

 

 

可能性として、サイコパス傾向とADHDの合併に留意する必要がある。

一般に、ADHD背側部の機能不全と関連があるといわれている。そして遂行機能検査で顕著に成績が悪い

 

したがって、反社会的行動遂行機能障害との間に関連がみられるのは、反社会的行動をとる者の中にADHDの患者群が混ざっているためである可能性がある。

 

 

ADHDの病理自体が反社会的行動に繋がっているわけではないので、「ADHD₌反社会的」という風な誤解はしないように。そうではなくて、ADHD反社会的行動リスク要因になりうると理解しておこう。

 

(健常者の情緒的な共感性は、僕から見れば大量虐殺のリスク要因だ。だからといって、健常者の共感性自体が反社会的行動に繋がるとは考えないし、実際そうではない。包丁のように、使い方や状況によって潜在的な危険性が発露する(=リスク要因)というべきだろう。)

 

 

さてこうした考えに合致して、ADHDが併存していない反社会的行動を示す群を対象にした研究により、彼らには遂行機能障害がみられないことが明らかになっている。

 

結論として、「背側部」に関連する遂行機能障害反社会的行動の関係は、因果的なものではなく、相関に過ぎないと考えられる。(背側部に障害を有する人は、近くの内側部や眼窩部にも障害をもつ傾向があり、実はそれが原因となって反社会的行動が引き起こされていたということ)

 

 

では逆に、サイコパス遂行機能障害を示すのだろうか?

 

その答えは「眼窩部と関連する検査では障害を示す」。

つまり、サイコパス前頭葉の機能不全を確かに示すが、それは「背側部」ではなく「眼窩部」に選択的である。

 

 

③(反社会的行動をとる人の神経画像研究データ)について。

サイコパス傾向のある人について前頭葉の活動をMRIなどを用いて測定した研究は存在するが、いずれも統計処理が雑だったり、知見が一致しないなどの問題がある。

 

次の図は、健常者群(HC)と社会恐怖群(SP)およびサイコパス群(PP)を対象に嫌悪条件づけを行っている最中の眼窩部の活動を測定したものである。

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真ん中の列は、条件刺激(CS)に対する「眼窩部」の反応を表す。(おそらく右向き)

 

ブザー音(CS)の直後に電気ショック(US)を与えられると、ブザー音(CS)を聞いただけで自律神経系亢進などの条件反応(CR)を示すようになる。(詳しくは前回を参考)

 

健常者ではCSによって「眼窩部」が活動するが、サイコパスの脳は、何事もないかのように落ち着いている。(赤や黄色が活動を示している)

 

このように、サイコパスは「眼窩部」と「内側部」に機能的障害をもつことは確かだと思われる。(ちなみに左列は島皮質、右列は扁桃体の活動を示す。論文はこちら

 

 

サイコパス前頭葉機能不全がなぜ反応的攻撃/サイコパシーを高めるのか」については、今後かなりの研究が必要だ。

 

しばしば、前頭葉の機能不全によって”抑制”の低下が起こる、という説明がされる。しかしそれでは、「抑制性回路」が存在しないシステムについては前頭葉の機能が解釈できない。

 

そこで前頭葉の機能を具体的に記述し、その障害により反社会的行動が生じることを説明しようとするのが「ソマティック・マーカー仮説」だ。

 

 

ソマティック・マーカー仮説

ソマティック・マーカー(身体の標識)という言葉は聞きなれないだろう。

簡単に言ってしまえば、「過去のネガティブな経験に基づく警告」だ。

 

 

トランプ課題を思い出そう。

はじめはカードを引く毎に報酬をもらえるが、引き続けるうちに罰が増えていき、損をするようになっていく。

 

健常者では、罰を受けた過去の苦い経験が無意識に干渉し、カードを引こうとする度に自律神経系が亢進するようになる。(≒緊張する)

 

この「苦い経験をする→同じような状況に遭遇する→無意識に自律神経系が亢進する」という一連の反応こそ、ソマティック・マーカーによる警告である。

 

「眼窩部」や「内側部」を損傷している患者は、このソマティック・マーカーによる警告(=自律神経系の亢進)が見られず、カードを引き続けて損をしてしまう。

 

さて、このようなモデルからサイコパシーを説明できるだろうか?

 

 

たしかに「眼窩部」と「内側部」を損傷しているサイコパスは、過去の犯罪から苦い経験をしても、次の犯罪を行おうとする際にソマティック・マーカーによる警告がないため、高い再犯率に繋がってしまうと考えられるだろう。

 

 

しかし、「反応的攻撃」と「道具的攻撃」の違いをどう説明すればよいだろうか。

「眼窩部」と「内側部」の損傷をもつ患者は、効率に「反応的攻撃性」を示すということをよく考える必要がある。また、サイコパスはソマティック・マーカーが発生していることを示す研究も存在する。

 

したがって、サイコパス「顕著な道具的攻撃性」を説明しようとするとき、前頭葉機能不全仮説やソマティック・マーカー仮説はほとんど役に立たない。

 

 

 

Question

  • 左半球活性化(LHA)仮説について、その根拠と問題点を答えよ。

 

答え:右視野や右耳に単語を提示し、左半球を選択的に活性化すると情報処理機能が低下するという知見が根拠。しかし、なぜ左半球の活性化が情報処理機能の障害を引き起こすのか、そのような左半球の活性化をどう定量する(具体的に数値化する)のか、などの問題がある。

 

 

  • 前頭葉機能不全仮説およびソマティック・マーカー仮説について、その根拠と問題点を答えよ。

 

答え:前頭葉機能不全が遂行機能不全をもたらし、反社会的行動に関与すると考えられ、サイコパスに「眼窩部」と「内側部」の機能障害が見られること。そしてソマティック・マーカーが発生しない「眼窩部」と「内側部」の損傷患者では、反社会的行動が見られるということ。

 

問題点としては、第一に「背外側部」に関連する遂行機能不全については反社会的行動との因果関係はなく、相関に過ぎないということ。

 

第二に、「眼窩部」と「内側部」の損傷およびそれに関連する遂行機能不全は確かに反社会的行動に結び付くものの、それは反応的攻撃性に限られるということ。

 

第三に、前頭葉機能不全仮説では「前頭葉の機能障害によって、なぜサイコパスになるのか」という解釈ができず、ソマティック・マーカー仮説を用いて解釈すると、反応的攻撃と道具的攻撃の区別ができなくなるということ。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-

 

 

 

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”サイコパスの機能的障害”

前回サイコパスに関する遺伝子と環境要因について説明をした。

今回は、サイコパスがもつ情動と認知の障害についてみていこう。

 

 

サイコパスは不安障害か?

サイコパスは不安を感じにくく、それにより反社会的行動が促進されるということを示すデータが数多く存在する。しかし、こうした知見とは矛盾するように、反社会的行動と不安には正の相関があった。(不安が高いほど反社会的行動も高くなるということ)

 

この矛盾の原因は何か?

それは、反社会的行動を「反応的攻撃」と「道具的攻撃」に分類していないことである。

 

実際に研究では、サイコパスにおいて不安の程度と冷淡さや情動欠如といった特徴は逆相関していた。(不安が低いほど、「冷淡さ」や「情動欠如」は高くなる。)

 

一方で、冷淡さや情動欠如といった特徴を統制して(同じ冷淡さや情動欠如を持つ人同士で比較して)解析すると、不安水準の高さと衝動性や行動上の障害との間には正の相関がみられた。(不安が高いほど、衝動性など行動上の問題が多くなる)

 

こうした知見から、反社会的行動をとる人達には、少なくとも二つの集団が存在することが示唆される。それは不安をあまり示さないサイコパス集団」と、不安水準が高まることによって反社会的行動をきたす第二の集団である。

 

 

 

サイコパスの脅威刺激への反応

サイコパスでは恐怖感情が低下していることを示す研究が数多く報告されている。

それらを証明する方法には、①嫌悪条件づけ ②恐怖体験の想像 ③驚愕反射 などがある。

 

①嫌悪条件づけ

嫌悪条件づけとは、不快な出来事と外界の出来事を結び付けて学習することである。サイコパスでは、嫌悪条件づけが障害されいる。

 

無条件に嫌悪をもたらすような不快な刺激を無条件刺激(US)と呼び、USには電気刺激などがある。

 

被検者は、電気刺激を受けると発汗する。USに対して無条件に(自律的に)起こる反応を無条件反応(UR)と呼び、ここでは発汗がそれにあたり、発汗の程度は皮膚電気反応によって測定できる。

 

外界の出来事としての条件刺激(CS)にはブザー音を用いた。CS(ブザー音)の5秒後にUS(電気刺激)を呈示することで、被験者がCSに対して条件反射(CR)を引き起こすように学習するかを調べた。(ブザー音を聞いただけで発汗するかどうか、つまり皮膚電気反応が上昇するかどうかを調べた)

 

あなたが被験者だと想像して欲しい。ブザー音がすると、その5秒後に電気ショックを受ける。そのうち、あなたはブザー音を聞いた後に電気ショックを受けることを学習するだろう。(嫌悪条件づけ) そして、ブザー音がなってから5秒、4秒、3秒...と近づくにつれ不安が高まり、手に汗をかくことだろう。

 

しかし、サイコパスではブザー音に対する皮膚電気反応(CR)が有意に減弱していることが示された。つまり、サイコパスでは嫌悪条件づけが障害されているのだ。

 

また、サイコパスに「家でひとりでシャワーを浴びているところに、誰かがドアから押し入ってくるのが聞こえてパニックになる」といった ②恐ろしい状況を想像しても、彼らの反応は著しく減弱していた。

 

 

③驚愕反射

大きな音や迫ってくる物体などの脅威刺激にさらされたとき、僕らの身体は不随意的に(無意識的に)反応を起こす。

 

たとえば、ホラー映画で怪物がクローゼットから突然飛び出してくる状況における反応だ。このようなシーンでは、怪物が飛びだしてくるまでに流れる「不気味な音楽」ネガティブな先行刺激として機能し、「そろそろヤバいな...」という予感と共に、音楽は脅威刺激に反応する脳のシステムを活性化し、驚愕反射を強める

 

ためしにホラー映画を無音で鑑賞してみると、怖いシーンに対する反応が大幅に弱くなることが分かるはずだ。これは、ネガティブな先行刺激を消去したためである。逆に、ホラー映画を好きな人と一緒に鑑賞する場合では、その人と居ることがポジティブな先行刺激となり、驚愕反射は弱くなる。

 

 

同様の枠組みを用いた実験により、サイコパスではポジティブな先行刺激によって驚愕反射が弱まる一方で、ネガティブな先行刺激による驚愕反射の増強は有意に少ないことが示された。(ホラー映画の恐ろしい音楽を聴いても、その後の驚きが増強されない)

 

 

サイコパスの情動学習

道具的学習とは、報酬を得たり罰を回避するために、特定の行動を学習することだ。この道具的学習の1つに、「応答逆転」の能力をテストする課題がある。

 

応答逆転とは、ある刺激に対して同じ反応をしていたのではもはや報酬は得られず、罰を受けてしまうことに気づき、その反応を変えることを学習することだ。

 

たとえば、最初はパチンコで勝ち続けていたものの、所持金が減っていくことに気が付き、パチンコをやめるという選択を取るのが「応答逆転」だ。

 

 

応答逆転の能力をテストする課題には「トランプ遊び課題」があり、被験者はカードを引くのか引かないのかを決めるように求められる。

 

最初は、カードを引く選択が強化されるように、カードを引くたびにお金がもらえるように設定されている。しかし、ずっとカードを引き続けていると、次第に報酬が得にくくなり、むしろお金が減っていくようになる。

 

つまり、はじめは10枚中10枚で報酬が得られていたものが10枚中9枚、8枚...と次第に減り、最後は0枚となる。理想的には、10枚中4枚しか報酬が得られなくなったとき、その人はカードを引くのをやめるべきである。

 

しかし、サイコパスはこの課題の成績が非常に悪い。繰り返し罰を受けてもカードを引き続けてしまい、お金をすべて失ってしまうこともある。

 

 

また、サイコパス情動記憶の障害をもつことも示されており、過去のネガティブな事象(親の死別など、思い出すたびに辛くなるような視覚イメージ)を思い出すことが難しい。

 

人は過去の失敗や恐怖体験をよく覚えているものだが、サイコパスでは、そうしたネガティブな情動は記憶に何の影響も及ぼさず、また過去の失敗を思い出しても、何も感じることがない。

 

 

サイコパスの共感反応

共感反応は①自律神経反応 ②表情認知 の2つから調べることができる。

 

自律神経反応

知人が電気ショックを受けている様子を見せると、大抵の人は狼狽するだろう。

 

そのときの自律神経反応を見ると、健常者では大きな反応が見られる。

しかしサイコパスでは、その反応が比較的減弱している。

 

 

また、下のような他者が苦痛を感じている写真をスクリーンに提示したときの自律神経反応を測定しても、サイコパスでは反応が減弱していることが示された。

 

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表情認知

表情認知のテストでは、情動的な表情や音声にマッチする情動語を答えるよう求められる。(この表情は恐れ、この表情は悲しみ、という風に答える)

 

その結果、サイコパス「恐怖」や「嫌悪」の”表情”認知に障害があることが示されており、また「恐怖」や「悲しみ」の”音声”認知に障害があることが示されている。

 

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サイコパスは、たとえ被害者が苦痛の表情や叫び声を聞いても、共感(同じような感情を追体験すること)ができないどころか、そもそも、ある表情や音声が恐怖を示していると気付くのが難しいのだ。

 

 

サイコパスの道徳的推論

これまでに紹介した「嫌悪条件づけ」「受動回避」「共感反応」は、子供が健全に発達

道徳的に社会適応するために重要な役割を果たすと考えられている。

 

サイコパスはこれらに障害をもつとするならば、道徳的推論にも機能不全があることが予測される。

 

 

「道徳/慣習識別課題」という課題では、被験者に道徳的あるいは慣習的違反についての物語が提示される。

 

道徳的違反とは、他者の権利や幸福への影響といった観点から定義される行動である。(たとえば、人を叩くこと) 

慣習的違反とは、社会秩序への影響といった観点から定義される行動である。(たとえば、授業中に私語をすること)

 

 

この2つを識別するための方法にはいくつかある。次の文章を読む前に、一度自分で考えてみて欲しい。「道徳的違反と慣習的違反は、どの点で識別できるだろうか?」

 

 

答えは大きく分けて3つある。

第一に、一般に慣習的違反より道徳的違反のほうが深刻だと判断される。 

 

第二に、道徳的あるいは慣習的違反の善悪は異なる理由に基づいて判断される。たとえば道徳的違反については、他者の苦痛が言及される。(人を叩くのがいけないのは、その人に苦痛を与えるからだ)

一方、慣習的違反については、その結果生じる社会的混乱が言及される(授業中に話すのが良くないのは、あなたは勉強をするためにそこにいるからだ)

 

第三に、これが最も重要であるが、その行動を禁止する規則がなかったとしても、健常者であれば道徳的違反は許されないものと判断する。(他人を叩くことを禁止する規則がなくても、やはりそれは悪い)

 

 

あなたの答えはどうだっただろう。もし区別できなかったら、あなたの道徳観はサイコパス的だと言える。(その人はサイコパスとジレンマの問題でも、迷わず5人をひき殺したのではないだろうか?)

 

 

健常者であれば3歳にもなればこれらの違反を区別できるのに対し、サイコパスは成人になっても区別することができない。また、道具的違反が悪い理由を説明する際に、被害者について言及することがはるかに少ない

 

 

Question

  • 一般に、不安水準の高さは反社会的行動に結び付く。しかし、サイコパスでは不安水準が低いにもかかわらず、顕著な反社会性を示すことがある。この矛盾の原因は何か。

 

答え:反社会的行動について「反応的攻撃性」と「道具的攻撃性」の区別がなされていないこと。不安の高さに起因する反社会的行動は多くの場合が「反応的攻撃」であり、その逆はサイコパスによる「道具的攻撃」である。すなわち、反社会的行動を示す人々には「サイコパス集団」と「不安水準の高い集団」の2つが存在する。

 

 

「不安水準の高い集団」にも様々な下位区分があるだろう。たとえばADHDのように基本脅威回路の「調整システム」である背側前頭前皮質に機能不全を有する場合(厳密には不安水準の高さというより、不安の上昇に伴う反応を調節する機能の問題)、あるいは自閉症や不安障害のように基本脅威回路の「脅威刺激レベル基準」を構成する扁桃体に機能不全を有する場合だ。

 

最近、新幹線の殺傷事件が取り上げられている。この二分法を採用すると、その殺人がサイコパス的ではないことは容易に分かる。実際、犯人は「自閉症」の診断が下されたらしい。しかしそれは「自閉症」の一次障害ではなく、二次障害と考えるべきだ。

 

まず、自閉症の診断基準に犯罪歴はない。彼らは確かに非社会性を有するが、それは特異なコミュニケーションスタイルや情動認知、過度なこだわりが一般社会と馴染みにくいことを指しており、一方で過度な暴力性や規範の無視といった反社会性とは異なる。彼らはむしろ社会規範に厳格すぎることすらある。

 

次に①自閉症は不安水準が高く、②軽度な不安から反応的攻撃を引き起こすリスクが高い(逃避行動が含まれることも忘れないように。)そして③その中の一部(恨みを持っている人、殺してはいけない理由が理解できない人など)は反応的攻撃性が反社会的行動として発露すると考えられる。自閉症は「不安の上昇」を媒介して反社会性が表れることが示唆されている。

 

 

サイコパス=犯罪者、アスペ=犯罪者、自閉症=犯罪者。」

よく聞くこれらの等式は成り立たない。いくら統計データを並べて「犯罪との関連がある」と主張しても意味がない。彼らの情動や認知の特性を理解し、犯罪に至るまでの合理的な説明が加えられて、初めて有意義となる。途中式を抜かした解答はゼロ点だ。

 

とはいえ、批判するのは誰にでもできることだ。今後の回では発達障害者、特にサイコパスを有意に合併するADHDについて、彼らが反社会的行動に至るまでの「因果モデル」を説明していこう。

 

 

  • 今回の内容から、日常生活においてサイコパス傾向の高い人を見分けるポイントを考えよ。

 

答え:「脅威刺激への反応性」からは、日常的な条件反応(CR)、すなわち「プレゼン前の緊張」や「ホラー演出への恐怖」を示さない人は脅威刺激に対する反応性が低い、あるいは嫌悪条件づけが弱い人だと思われる。

 

「情動学習」からは、情動的にネガティブな事象(失敗や罰)から学習ができず、同じ過ちを繰り返しているかもしれない。また、過去のエピソードを聞いたときには、その話は情動的に希薄な内容のように感じられるかもしれない。

 

「共感性」からは、ニュースや映画などで他者が苦しんでいる姿、悲しんでいる姿に共感する(同じような感情を追体験する)様子が一切見られないかもしれないし、あるいは表層的な共感を取り繕っているように思えるかもしれない。

 

「道徳的推論」からは、軽微な違反や浮気など、法的ではないが道徳的な問題について、彼らは罪や責任を感じる様子を見せないだろう。また「どうしてそれがダメなのか」ということについて、彼らは被害者の立場に言及することがないかもしれない。

 

言うまでもなく、知性の高いサイコパスはこれらを利用し、健常者よりむしろ活き活きとした感情を見せびらかすかもしれない。たとえば浮気が発覚したとき、申し訳なさを浮かべて「君のことを傷つけて悪かった...」と言うのはとても容易い。

 

しかし彼が「同じ過ちを繰り返す」というサイコパシーを操作できていなければ、あなたが彼の「表面的な魅力」を見破ることも、同様に容易いはずである。

 

 

これは持論だが、ある表現や行動について「何がサイコパス的か?」という問いに対する答えを仕入れておくことは重要である。その答えが多いほど他人の言動に動じなくなる。そして言動に動じなくなるほど、相手と適切な距離で接することが可能になる。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-

 

 

 

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”サイコパスの根本的原因は何か?”

 

よく考えれば分かることだが、「サイコパス扁桃体の機能不全あるいは前頭葉の障害が原因である」というような説明は、まったく役に立たない。

 

 

これだけでは、その機能不全によって結果的にもたらされる能力の障害、行動上の障害が生じる理由について適切な理解へと結びつかないからだ。(実際、「サイコパス扁桃体が機能不全なので良心が欠如している」と説明されてもピンと来ない。)

 

 

今後の章では、ある特定の「情動学習」ができなくなることが、サイコパスの”原因”であるという議論をする。その背景には、神経および神経伝達物質システムの機能不全が存在する。さらに「それがなぜ起こるのか?」という質問については、常に二つの答えがある。すなわち、「遺伝子的要因」「環境的要因」だ。

 

今回は、このふたつの基本的な要因(遺伝と環境)に関するデータを見ていこう。

 

 

サイコパスの遺伝的基盤は何か?

反社会的行動の遺伝的要因については、解釈に注意しなければいけない。

 

例えば「財布を奪うために人を襲う」という特定の「行動」について、遺伝子が直接関与しているとは考えづらい。(それは、「部屋を安全に通るために電気をつける」という行動に直接的な遺伝的寄与があると主張するのと同じだ。)

 

したがって、反社会的な行動をいかに学習するのか、ということについての遺伝的な寄与を考える必要がある。結論からいえば、サイコパス「情動障害」をもつために反社会的なやり方を学習する傾向があり、その「情動障害」こそ、遺伝的要素と反社会的行動を結び付けるものである。

 

 

この仮説を支持する研究を紹介しよう。

 

353組の男性双生児を対象にサイコパス傾向を調べた結果、「マキャベリ的利己主義」や「恐怖心の欠如」「冷酷さ」「責任転嫁」など16の尺度で中程度の遺伝性(h^2₌0.29-0.56)があり、環境要因の関与も示されている。

 

また、3500組の双生児を調査した大規模な研究では、「冷淡さ・情動の欠如」の要素は7歳児で既にみられ、3分の2が遺伝的要因によって説明できることが分かっている。また、サイコパス傾向についてはh^2₌0.67という有意な集団遺伝性が見られている。

 

ここで、双生児研究について説明しておこう。

 

一卵性双生児は同じ遺伝子のセット(ゲノム) をもつ。もしサイコパシーが完全な遺伝なら(遺伝率100%)、その双生児は2人ともサイコパスか、2人ともサイコパスでないか、そのどちらかとなる。(双子の顔が似ているのは、顔を形作る遺伝子の影響が環境の影響よりも大きい(≒100%)からだ。) こうして、双生児研究からサイコパシーの遺伝的寄与を調べることができる。

 

ちなみにh^2₌0.67という数値は、各双生児のサイコパシー・スコアのばらつき(分散)のうち、67%が遺伝的要因であるという意味だ。僕とあなたのサイコパシースコアは違うだろうが、その違いの原因は、67%が遺伝的要因であるといえる。

 

 

反応的攻撃の遺伝的背景

反応的攻撃には、ある特定の神経回路が関与している。

これを「基本脅威回路」と呼ぼう。

 

基本脅威回路は脅威刺激(ヘビや社会恐怖など)によって活性化し、反応的攻撃を引き起こす。そのためには、ある刺激レベルを超えなければならない。

 

もしサーベルタイガーを遠くで見かけたら、あなたは身をすくめるだろう。

そしてサーベルタイガーが近づいてきた(刺激レベルが上がった)場合、この回路によって「逃避行動」が引き起こされる。さらに逃げられないほど近づいてきた場合、ヤケクソになって「反応的攻撃」が引き起こされる。

 

より勇敢な人であれば、あなたがヤケクソになる程度の刺激レベルになっても、反応的攻撃が引き起こされないと予想できる。反応的攻撃が引き起こされるために必要な刺激レベルの「基準」は、人によって異なるということだ。

 

この「基準」の違いは、次の2つの点で遺伝的要因が関与している。

 

 

基本脅威回路への遺伝的影響

前回でも述べたように、うつ病や不安障害の人では反応的攻撃のリスクが増大している。これには、基本脅威回路の1つである「海馬」の過活動が関与していると考えられている。

 

この過活動に遺伝的要因が示唆されており、基本脅威回路の刺激レベルの「基準」を高める(反応的攻撃を引き出すためのハードルが下がる)ことによって、比較的軽度な刺激でさえ、反応的攻撃が引き出されてしまう。

 

実際に、うつや不安を引き起こす内生要因(海馬の過活動)によって、人が危険で犯罪を生みやすいな環境におかれたとき、反応的攻撃を示す可能性を高めるということが分かっている。

 

 

遂行的調節システムへの遺伝的影響

「遂行的調節システム」とは、ある目標を立て、それに向かって行動をする際に自分の反応を調節するシステムのことだ。

 

通学路の途中、番犬のように獰猛な犬がこちらに向かって吠えていたとしよう。あなたは、それでも学校向かわなければならない。このとき遂行的調節システムが作動する。大抵の子供は自分の反応を調節し、なんとか勇気を振り絞ってその道を通り抜けるだろう。

 

あるいは親から「勉強しなさい」と叱られたとき、誰でも不愉快な感情を体験するだろう。それでも「勉強をする」という目標に向かって行動するためには、このシステムを介して反応を調節する必要がある。

 

 

この「遂行的調節システム」が破綻することによって引き起こされる状態には「間欠性爆発性障害/衝動・攻撃性障害」および「小児期双極性障害がある。

 

これらの患者は易怒性(キレやすさ)があり、反応的攻撃のリスクが高い。上に書いた例では、吠えられた瞬間に逃避行動(反応的攻撃の一種)を起こしたり、「勉強しなさい」と叱られた瞬間にかんしゃくを起こしたりする。

 

これらの障害の原因に、遺伝が関与していることが示されている。

その機序として、遺伝がセロトニンへ影響を与えていることが考えられる。

 

セロトニンは、攻撃性や衝動性の調節に関与する神経伝達物質の1つだ。動物実験でも、セロトニン受容体を操作して活動を亢進させると攻撃性が減少し、逆に活動を低下せると攻撃性が増加することが知られている。

 

 

攻撃性に対する社会的影響

反応的攻撃性を高めうる社会的要因のうち、「妊娠中に受ける外的要因」「環境ストレス」の2つを詳しく説明しよう。

 

 

妊娠中の外的要因による影響

妊娠中の胎児の酸素が欠乏した状態(出産時合併症) は、脳損傷を起こしうる環境要因だ。出産時合併症をもって生まれた乳児は、将来、行為障害や非行につながりやすいということが分かっている。

 

4269人の男児を対象に、出産時合併症育児放棄の有無について調査した研究がある。そして出産時合併症と育児放棄は、18歳時での暴力犯罪の予測因子として機能することが分かった。

 

 

実際にこの両方があったのは全体の4%であったにも関わらず、彼らは4269人の中で起こった暴力犯罪の18%を占めた。(18歳が集まる100人の学年で、4人が出産時合併症と育児放棄を経験していたとしよう。その中で起きた暴力犯罪の18%は彼らによるものだと考えると、この影響の大きさが理解できる。)

 

残念ながら、出産時合併症は暴力行為と密接にかかわるものの、道具的攻撃性や反応的攻撃性、ないし両方のリスクを高めるのかどうかを評価した研究は存在しない。(妊娠中の環境要因がサイコパスの原因の1つである、とは言い切れないということ)

 

著者らは、出産時合併症は「反応的攻撃」のリスクのみを高めると考えている。つまり「遂行的調節システム」の破綻を引き起こすものだが、情動障害は引き起こさないものと見ている。

 

 

環境ストレスの影響

「虐待」のような環境ストレスは、海馬の機能低下を引き起こすなど、脳の障害を与えるということが分かっている。

 

僕らはストレスを感じると、扁桃体を開始点として体内にストレスホルモンが分泌され、「ストレス反応」(血圧の上昇、発汗、心拍数の上昇など) が引き起こされる。

 

このストレス反応は、たとえば恐ろしい外敵に接触した時、逃げたり闘うのに最適な身体の状態を作り出すために必要だ。そして海馬はストレスホルモンを感知すると、この反応を終わらせるために扁桃体を抑制する機能をもつ。

 

しかし、あまりにもストレスが長引くと海馬の機能が衰え、ストレス反応を制御できなくなる。つまり、環境ストレスは攻撃性を高める要因となりうる。

 

 

しかしながら、サイコパスに関連する扁桃体「眼窩前頭前皮質といった神経回路は、環境ストレスによって障害されることはない。むしろ、ストレスは扁桃体を損傷させるというより”増強”させてしまうことが分かっている。

 

扁桃体は「基本脅威回路」の一部であることを考慮すれば、環境ストレスは反応的攻撃の危険性を選択的に増大させるが、サイコパスにみられる道具的攻撃にはつながらないと考えられる。

 

 

その他の社会的要因

「出産時合併症」や「環境ストレス」は反応的攻撃のリスク増大にかかわるものの、それはサイコパスの原因となる社会的要因とはいい難い。

 

では、「社会経済的地位(SES)」「愛着」「家族背景」といった他の要因はどうだろうか。

 

 

SES

SESやIQ(より明確には知性) が高いと、低い場合よりも、目的を達成するための手段の選択肢が増える。

 

実際、SESやIQは反社会的行動の要素と逆相関するということを前回説明した。

 

健常者であれば、たとえSESやIQが低くとも反社会的行動を回避するのだが、サイコパスでは反社会的行動を回避できず、有用な手段として選択してしまう。

 

またSESによって、ある特定の行動の相対的な価値が変動する。簡単に言えば、金持ちのサイコパス(高SES)は財布を盗むという反社会的行動への価値を低く感じるが、一方で貧乏なサイコパス(低SES)の場合、どうだろうか。

 

こうした観点から、「SESは道具的攻撃性の”表出”に間接的に関与する」といえるだろう。「SESはサイコパスの原因である」という意味ではないので注意して欲しい。

 

つまり、サイコパスと同程度の情動障害をもちながら、SESが高いことによって、サイコパスの徴候を示さない一群がいると考えられるわけだ。

 

金持ち喧嘩せず」というが、地位や知性のある人は、露骨な反社会的行動を取らずとも目的を達成することができる。

 

 

愛着

「愛着理論」には、幼少期に子供が健全な愛着を発達させることができなければ、成人したときに他者と親密な関係を築けないという考え方がある。

 

この理論では、愛着が乏しいために道徳形成の過程が妨げられ、サイコパスへと発展するということが示唆される。つまり、幼少期の親との間の関係性が、他者に対する関心や関係の出発点であると考えられている。

 

 

確かにサイコパスは、重要な他者にすら愛着が欠如しているということが言及されている。しかし、愛着の問題が、サイコパスの原因なのだろうか?

 

サイコパスには共感性が欠如しており、他者の苦悩に対する嫌悪反応が見られない。これは幼少期の愛着が原因であると考えると、ある矛盾が生じる。

 

たとえば「自閉症」のように愛着に問題があると分かっている人でも、他者が示す苦悩に対して嫌悪反応を示す。つまり、他者の苦悩に対する嫌悪反応に、愛着は必ずしも必要ではない。

 

したがって、少なくとも共感性の一部については、愛着に関係なく生じることが明らかである。

 

 

愛着とは、他者との情動的なつながりによって形成されるものだ。そしてサイコパスでは、その情動学習が障害されている。したがって、サイコパスの情動障害こそが、愛着の発達を妨げていると考えられる。

 

 

家族背景

家族背景としては、「親の反社会的傾向」「一貫性のないしつけ」「体罰」「低学歴」「幼少期の親との別離」などがある。

 

特に「反社会的な親」「一貫性のないしつけ」「アルコール依存」は、一般人を対象にしたサイコパシーテストの得点を、最も強く予測できる因子であることが分かっている。しかし、これらの家族背景は犯罪者を対象にすると関係がなかった。

 

家族背景とサイコパシーには僅かな関連が見られる程度であり、その調査は被験者の記憶に基づくため、サイコパスが示す虚偽性により修飾されている可能性がある。

 

また、これらの家族特性は反社会的行動を悪化させうるとしても、サイコパスの”原因”であるとは考えられない。

 

 

たとえば、悪いことをしたときに「罰」を与えるか、他人の気持ちに注意を向けさせて「共感」を引き出すかでは、後者の方がより適切に道徳的社会性を身に着けることができる。

 

そのような観点から、親の教育方法によって子供がサイコパスとなるのではないか、と考えることもできるだろう。しかし、このような関連は、サイコパスについては当てはまらないのだ。

 

驚くべきことに、サイコパス傾向 (罪悪感や後悔の欠如といった情動障害) を示す子供たちについては、親がどのように社会性を身に着けさせるかということは、彼らの反社会的行動の確率に影響を及ぼさないということが分かっている。

 

 

Question

  • 結局、サイコパスの”根本的な原因”はどこにあるか。

 

答え:遺伝と環境サイコパスに特徴的な道具的攻撃は、彼らが情動障害をもつことで”学習”が可能となり、それは扁桃体や眼窩前頭前皮質の障害が原因であると考えられる。しかしさらに根を辿れば、それらの障害の原因となるのは、神経や神経伝達物質システムに異常をもたらす「遺伝と環境」である。

 

 

  • 反応的攻撃を引き起こす「基本脅威回路」は、2つの点で遺伝的影響を受けると考えられる。それぞれどのようなものか。

 

答え:1つ目は「基本脅威回路の刺激レベルの基準」であり、どの程度の脅威刺激で反応的攻撃が引き起こされるか、という点に関してそれぞれ遺伝的に異なる。

2つ目は「遂行的調節システム」であり、この機能の発達が遺伝的に障害されている場合、自らの反応を調節できず、反応的攻撃性のリスクが高まりやすくなる。

 

 

  • 「出産時合併症」や「環境ストレス」などの環境要因は、サイコパスの原因か。

 

答え:いずれも「反応的攻撃」のリスクを高めるものの、「道具的攻撃」には関与しないと考えられ、サイコパスの原因とは言い難い。とくに虐待のような「環境ストレス」は扁桃体を増強させるため、サイコパスの病理からむしろ離れてしまう。

 

 

  • 「経済社会的地位(SES)」「愛着」「家族背景」について、サイコパスと関連づけて説明するとどうなるか。

 

答え:SESはある目的を達成するための手段の選択肢の多さ、主観的な価値の変動に関与し、サイコパスに特有な道具的攻撃性の”表出”に関わる。

愛着はサイコパスの原因ではなく、サイコパス情動障害が原因となって愛着の形成が妨げられる。

家族背景は反社会的行動を悪化させうるが、やはりサイコパスの原因とは言い難い。親の教育方法にかかわらずサイコパスは道徳的社会化が阻害される。

 

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-

 

 

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”背景的情報”

 

今回は、サイコパスの「疫学」について検討する。

特に、性別による違いや知能、社会経済的地位(SES)との関連、そしてADHD統合失調症など他の精神障害に合併する頻度について考察する。

 

サイコパスの有病率

サイコパスの行動や情動の特性を人が初めて聞くと、知人にも似通った人がいることに気づく。そして、サイコパスとは重大な殺人犯やテロリストといった少数の人たちだけに当てはまる概念ではないと理解する。

 

DSM-4によると、一般社会における男性の反社会性人格障害(ASPD)の有病率は3%、女性では1%である。犯罪者を対象に調べると、男性は42%、女性では23%である。

 

サイコパスの有病率は、ASPDよりもずっと低い。

とはいえ、一般社会におけるサイコパスの疫学研究は少ない。

 

アメリカのある刑務所収容者の80%がASPDの診断基準を満たしたものの、PCL-Rによって診断すると、サイコパスの基準を満たすのは15%から25%だけであった。これより推定される一般社会での有病率は0.75%である。

 

サイコパスの冷淡で情動の欠如を示す成分(因子1)については男女差はないが、反社会的行動成分(因子2)については性差があるとの指摘がある。さらに、女性の因子1のスコアは再犯と有意に相関していた(r₌0.26)が、因子2は相関していなかった。

 

反社会的な行動障害については、情動障害という一次的な影響に加えて様々な二次的な影響(ジェンダーや体格差など)が関与するため、驚くほどのことではない。

 

 

犯罪傾向

犯罪率は、17歳でピークを迎え、成人に達してから急速に減少する。17歳における激増の原因は、周りの仲間のあまりに多くが何らかの反社会的な活動に関与するので、それが当たり前のように思えてしまうということがありうる。

 

ニュージーランドの調査によると、飲酒や身分の詐称など軽微な犯罪も含めると、何らかの非行や違法行為にまったく関与しない男性は7%しかいないことが分かっている。

 

反社会的行動が成人以降急速に減少することに一致して、ASPDの診断も同様の傾向を示す。ところが、889人の男性収容者を対象にした研究では、因子1の平均得点と分散を5歳おきに比較検討したところ、類似していることが分かった。対照的に、因子2の平均得点は有意に減少し、一方で分散は増加した。

 

簡単にいえば、情動障害は一生モノだが、反社会的行動は年齢と共に減少していく傾向があるということだ。

 

 

こうしたデータから、著者らは行為障害(未成年期の顕著な反社会的行動)には2つのパターンがあると考えている。それは「小児期発症型」「青年期限局型」である。

 

青年期以前から問題行動があった場合(小児期発症型)、成人してからも持続してそのような行動を取るという予測が立てられる。さらに小児期発症型の行為障害は、攻撃性がより著しいということが分かっている。(この話については、7章で詳しく説明する)

 

 

社会経済地位(SES)が低いと、反社会的行動の危険性が高まるといわれている。しかし、サイコパスに関してそのような報告は少ない。父親の職業について失業者から専門職まで7つの階級に分類して調べてみても、因子1、因子2のいずれにも有意な相関みられなかった。

 

ロバート・ヘアらは、IQとPCL-Rの総スコアおよび因子1のスコアとの間には相関がないことを明らかにした。一方で反社会的行動(因子2)の得点とは負の相関を示した。つまり、IQが低いほど反社会的行動が顕著になる。同様の傾向は、サイコパス傾向のある子どもにも見られる。

 

サイコパスはIQが高い」という都市伝説があるが、そのような証拠はまったくない。むしろ反社会的行動は、知能や教育状況の悪さと関連している。

 

 

合併症

統合失調症は暴力のリスク要因であると指摘されている。しかし、サイコパスとの合併は示されていない。統合失調症「背外側前頭前皮質の全般的な障害に関連するといわれる一方で、サイコパスにこの領域の障害は見られない。

 

不安障害や気分障害は、いずれも攻撃性のリスクの増大と関連している。たとえば、ASPDには不安障害がよくみられる(61%)社会恐怖PTSD(トラウマ)は、有意にASPDの診断率を増加させる。

 

一方で、不安の程度はサイコパスの情動障害の因子1と逆相関し、反社会的行動の因子とは正の相関を示した。そして、うつ病サイコパス因子は逆相関する。

 

こうしたデータからも、ASPDとサイコパスを明確に分ける必要性が示唆される。(この詳細ついては前回を参考に)

 

 

物質乱用障害(アルコールや薬物中毒)は因子2のスコアと相関するが、因子1とは相関しない。「サイコパスはアル中」というのは間違いだ。

 

サイコパスは高率に「注意欠陥・多動障害(ADHD)」を合併する。筆者らの研究でも、サイコパス傾向のある子どもの75%以上がADHDを満たすことが示された。これについては9章で詳しく説明する。

 

 

Question

  • 年齢・社会経済的地位(SES)・IQはいずれも反社会的行動とどのような関係にあるか。また、情動障害(因子1)とはどうか。

答え:逆相関する。つまり年を取るほど、高い地位に就くほど、そしてIQが高いほど、反社会的行動はみられなくなる。一方で、サイコパスの根幹をなす情動障害(因子1)とは相関がない。つまり、これらはサイコパスとは関係のない事象だといえるだろう。

 

答え:統合失調症とは相関が無い。不安障害や物質乱用障害は反社会的行動と関連があるものの、因子1とは逆相関する。ADHDサイコパスと有意に合併する。サイコパス傾向のある75%以上がADHDの診断を満たす。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-