サイコパスを操作する

Twitter: @KranGeist

他人を攻撃しても平気な人たち

Harm to others outweighs harm to self in moral decision making.

 

意思決定タスク (下図)

 「強ショック-高報酬」か「低ショック-低報酬」を選択.

電気ショックの対象は,自分自身の場合もあれば,他人の場合もある.

自分に対する危害,他人に対する危害を嫌がる程度を,金銭的に定量できる.

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task

このタスクによって,「金のために他人を傷つける」 という,サイコパスに特徴的な攻撃性 (道具的攻撃性) を調べることができる. サイコパスは他人を攻撃しても平気なので (情動障害),このような攻撃性を顕著に示すと考えられている.

 

※詳しい数式は本稿を参照

K_self / K_other: 自分/他人の「危害嫌悪パラメータ」.上のタスクから推定される.

K=0 のとき,意思決定者は危害を回避せず,金のためにあらゆるショックを受ける (与える). Kが1に近づくと危害嫌悪が大きくなり,(自分または他人の) ショックを小さくするために,より多くの金を払う.

 

K_other - K_self は,利他主義性をあらわす.

結果,K_other > K_self だった.つまり,自分よりも他人の危害を小さくするためにコストを払う人が多数派だった.これが論文のタイトルになっている.

ちなみに,自分と他者に対する危害嫌悪は互いに強く関連していた.

 

 

嫌な結果を予測することは,行動の阻害につながることが多い.

そのため危害嫌悪の強さは,「反応時間の遅れ」に関連するだろうと予測された.

 

実際,ある反応がより大きなショックにつながる場合や,最大ショック数が大きい場合には,反応が遅れた. またこれらの減速効果は,K_selfと相関した.

 

また危害嫌悪が自分より他人の方が強いのであれば,他人に対する危害については反応がより遅れるはずである.そして実際,そうなった (下図).他人に対する危害を考えるときの方が,意思決定が遅れたのである.

 

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Response Time

 

 

では,サイコパスはどうか.

 

サイコパシーと危害嫌悪の程度は,負の相関を示した.

(K_self: r= -0.33, p=0.003; K_other: r = -0.39, p = 0.0002)

 

しかし,利他主義とは”傾向レベル”の相関だった.

(K_other - K_self: r = -0.19, p = 0.091)

 

 

この結果を考察すると面白い.

 

サイコパスには,たしかに「他人を攻撃しても平気な傾向」がある.それと同時に,「自分を攻撃しても平気な傾向」もある (少なくとも,危害を低く見積もっている).

 

そのため利他主義(K_other - K_self)との相関は小さく,有意差も出なかった.

これは,利他主義の定義によって結果が異なってくるだろう.

 

 

 

またサイコパシーは,自分に対するショック時における「反応時間の遅れ」とも負の相関があった.一方,他人に対するショックでは「反応の遅れ」とは無関連だった.

 

ここからは,サイコパスは自分の危害に対してのみ無頓着だ」といえるかもしれない.というのも,彼らは他人に対する危害嫌悪 (K_other) は小さいが,健常者と同等レベルの”熟慮”(反応時間の遅れ) があったことを示しているからだ.

 

この点については,さらなる研究が必要だろう.

 

 

余談だが,男性は女性よりも危害嫌悪が小さいことが分かっている.

しかし危害嫌悪に関する性差は,サイコパシーによって緩和される.

 

つまり,”男性は女性よりもサイコパシーが高いから”,危害嫌悪が小さいのである.

同程度のサイコパシーで比較すると,男女間に危害嫌悪の差は見られない.

 

サイコパス研究 レビュー

The neurobiology of psychopathic traits in youths

Nat Rev Neurosci. 2013 Nov; 14(11): 786–799.

   <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4418507/>

 

要約

行動障害は、子供の環境を混乱させ、彼または彼女の機能を損なう、持続的な攻撃的または反社会的行動を特徴とする小児行動障害である。

 行動障害を持つ子供の一部はサイコパス的な特徴を持つ。 サイコパスの特徴は、2つの中核的な障害と関連しており、CU特性と衝動的 - 反社会的要因から成る。

1つ目は、他の個人の苦痛に対する共感的反応の減少。これは主に、苦痛の合図に対する扁桃体の反応性の減少を反映する。

2つ目は、意思決定と強化学習における欠陥であり、これは腹内側前頭前野線条体の機能不全を反映する。

 

遺伝的要因および出生前要因は、これらの神経系の異常な発達に寄与しており、動機づけに影響を与える社会的 - 環境的変数は、反社会的行動がのちに表出される可能性に影響を与える。

 

 

行為障害 (CD)患者は、ストレス手がかりに対する扁桃体活動の低下、意思決定にまつわる強化シグナルに対する線条体およびVMPFCの感受性低下などを示す。

基本脅威回路は「扁桃体-視床下部-PAG」であり、この反応性が高い場合には反応的攻撃性が増大する。 そのような人は、気分障害または不安障害の基準を満たすCD患者 (全体の40%)であるかもしれない。

対照的に、サイコパスでは扁桃体の活動性は低下している。

 

参考

Reduced amygdala response to fearful expressions in children and adolescents with callous-unemotional traits and disruptive behavior disorders.

Am J Psychiatry. 2008 Jul;165(7):920.

CU特性をもつ若者が、健常者およびADHDと比較して扁桃体の活動が減少していることを示した。また機能的解析では、CU特性のスコアと「扁桃体-VMPFC」の結合との間に負の相関を示した。  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18281412>

 

Amygdala hypoactivity to fearful faces in boys with conduct problems and callous-unemotional traits.

CU特性をもつ患者において、恐怖表情に対する右扁桃体の活動性低下を示した。  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18923070/>

 

The neural signatures of distinct psychopathic traits.

サイコパシーの「対人関係面」については、恐怖表情に対する扁桃体の反応性と負の相関があるのに対して、「ライフスタイル面」については、怒った顔に対する扁桃体の反応性と正の相関があった。  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22775289/>

 

 

CU特性は、認知的共感の低下とは関連しない一方、特定の情動的共感 (他人の恐れ、悲しみ、痛みと幸福への対応など) の低下と関連している。この機能障害は、苦痛の合図に対する扁桃体およびVMPFCの反応性低下と関連している (図)。

認知的共感において、通常はVMPFC、TPJ、PCCなどの活動性が増大するが、サイコパシーにおいても同様の活動がみられた。

 

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サイコパシーは強化学習および強化期待値の表現において障害を示す。

この意思決定における問題は第二因子に関連している可能性があり、ADHDにもみられる。この機能は、VMPFCおよび線条体における機能不全と関連する。

 

「情動的共感」

サイコパスは、怒りおよび嫌悪の表情を正常に認識している。

対照的に、彼らは ”苦痛の手がかり”、すなわち恐れ、悲しみ、痛みの表情認知に障害を示す。これは一貫しており、メタ分析でも確認されている。そして、恐怖表情を見ている際の扁桃体の活動が低下している。

 

サイコパス扁桃体による苦痛手がかりの処理が減少しているため、他人を傷つける行動への嫌悪感の減少をもたらし、その結果、彼らは目標を達成するために他者を傷つける (道具的攻撃) を行う可能性が高い。

 

参考

Deficits in facial affect recognition among antisocial populations: a meta-analysis

Neurosci Biobehav Rev. 2008; 32(3): 454–465.

反社会性の人物は恐怖表情の認識ができないことを示した。

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2255599/>

 

Not just fear and sadness: meta-analytic evidence of pervasive emotion recognition deficits for facial and vocal expressions in psychopathy.

Neurosci Biobehav Rev. 2012 Nov;36(10):2288-304

サイコパスが認識できないのは、恐怖や悲しみの表情だけでないことを示した。

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22944264/>

 

サイコパシーは、「ケアベース」の道徳的判断の形成、すなわち他人に危害をもたらすような判断に影響を与える。

ケアベースの判断は、被害者の苦痛に対する嫌悪感のある感情的反応、苦痛を引き起こした行動の表現、罪の価値を表VMPFCとを関連づける扁桃体に依存している。

 

サイコパスはケアベースの道徳的推論に障害を示し、個人的な費用で寄付することが少ない。そして、サイコパスの障害は、このケアベースの道徳的推論に選択的である。彼らはケアベースを軽視するが、慣習的および嫌悪ベースの違反に対する判断は健常者と変わらない。なお、嫌悪ベースの判断は島皮質の活動と関連する。

 

参考

Disparities in the moral intuitions of criminal offenders: The role of psychopathy.

サイコパスは「危害予防」「公平性」の支持の減少における分散のかなりの割合 (それぞれ19%, 16%) を説明したが、ほかの領域についてはそうではなかった。

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21647247/>

 

「情動学習と意思決定の障害」

サイコパスは、社会的強化因子に対する反応性の低下、嫌悪条件付け、受動回避学習、オペラントの消滅、逆転学習のプロセスの欠陥を示す。嫌悪条件付けの障害については、成人ではサイコパスにしか見られず、未成年ではCD患者にもみられる。

 

サイコパスは、結果(報酬または罰)に対する「刺激-反応 連関」の形成能力が欠如しており、扁桃体線条体、VMPFCの機能不全によるものと考えられている。

意思決定において強化結果情報を有効に用いるためには、①行動のフィードバックとして得られた報酬/罰の表現 ②行動を実行するかどうかを検討するときの期待値の適切な表現 が重要。

 

①については、予測誤差シグナルが必要であり、扁桃体線条体によって媒介される強化学習を促進する。

 

「VMPFC」は、受け取った報酬をエンコードする。サイコパスは、報酬に対するVMPFCの反応低下を示し,予測誤差シグナルの乱れを表している。

 

健康な成人では、正の予測誤差は線条体の活性と関連しており、サイコパスではこのシグナルが強くない。したがって、サイコパス強化学習がより少なく、より遅いと考えられる。

 

また,罰に対する反応がサイコパスと健常者で真逆である。すなわち、予想以上に悪い処罰は、通常、線条体活動の減少に関連している。しかしサイコパスでは、罰に対する予測誤差と線条体の活動に正の相関が示された。

 

報酬の予測因子となるような刺激に対して、その期待値とVMPFCの活動は相関する。サイコパスはこの相関が弱く、期待値情報を使用したり表現するのが難しく、意思決定の問題にかかわっていると考えられる。

 

参考

Association of poor childhood fear conditioning and adult crime.

3歳児での嫌悪条件付けの程度が、23歳時での犯罪を予測した。扁桃体およびVMPFCの機能不全と関連。

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19917592/>

 

 

嫌悪手がかりに対する扁桃体の反応性の低下,予測誤差および期待値に対する尾状核,VMPFCの反応性の低下をもたらす遺伝的変異は,サイコパスのリスク増大を導く.一方,脅威に対する扁桃体の反応性を増加させる遺伝的変異は,反応的攻撃のリスク増大と関連している.

 

双生児研究から,明らかにCU特性の遺伝性が示されている.サイコパシーと関連する可能性のあるSNPリストが作成されたが,いずれもゲノムワイド統計的優位性に達しない.これは,サンプル数の少なさに起因すると考えられている.(High Psychopathy 300人)

 

MAOA,5-HTTLPR, COMTなどのSNPが扁桃体の反応性の増加と関連していることが分かっている.ただし,これらの研究では道具的・反応的攻撃の区別がなされていない.

 

扁桃体の反応性「低下」に関連する遺伝子変異を調べた研究は少ない.

COMTrs4680多型はCU特性と関連しないことが示されているが,ほかの2つの研究では,脅威に対する扁桃体の反応性低下に関連していることが示された.

 

要約すると、CU特性への遺伝的寄与があるが、扁桃体の応答性の低下(すなわち、精神病的形質を支える可能性がある神経生物学的特徴)の両方に関連する特定の遺伝子変異体はまだ同定されていない。

 

対照的に、COMT、MAOA、5-HTTLPRの特定の変異体は、扁桃体の反応性の増加と攻撃の危険性の増加に関連する(これは反応性攻撃に特有のものである)。

 

参考

Evidence for substantial genetic risk for psychopathy in 7-year-olds.

高レベルのCU特性は強い遺伝的影響下にあり,高レベルと低レベルを弁別できることを示した.そして,高レベルのCU特性をもつ子供の反社会的行動は強い遺伝的影響下にあり,共有環境の影響を受けない.サイコパシーの分子遺伝学的研究は,CU特性にフォーカスすべきである.

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15877765>

 

 

環境要因については明らかになっていない.ただし,妊娠中の物質乱用はCU特性のリスク増大と関連していおり,出生前の環境要因が重要であることが示唆されている.

 

嫌悪手がかりに対する反応性の低下は,他人の苦痛に関心がなく,より悪い決定をくだす個人を生み出すと考えられる.しかしその欠陥だけでは,個人の「攻撃意欲」を高めることはできない.SESの低さなどの環境要因がそのような効果をもつかもしれない.

 

 

「Treatment」

CD患者に対しては,抗精神病薬が投与されている.アリピプラゾールはドーパミンD2受容体およびセロトニン1A受容体に作用するアゴニストである.

リスペリドンは,ラットのVMPFCにおけるドーパミンセロトニンノルアドレナリンアセチルコリンの細胞外レベルを著しく上昇させる.

 

サイコパスが示す機能不全のいくつかは,セロトニン作動性およびドーパミン作動性システムを操作することによって模倣できる.

セロトニンの枯渇は恐怖表情の認識を乱し,強化に基づく意思決定の課題(受動回避学習・逆転学習)のパフォーマンスを低下させる.

 

ドーパミンは強化のシグナリングにおいて重要であり,ドーパミンが枯渇することにより,強化に基づく意思決定タスクのパフォーマンスが低下する.ドーパミンのアンタゴニストは脅威刺激に対する扁桃体の反応性を低下させ,ドーパミンアゴニストは恐怖表情に対する扁桃体の反応を増大させる.

 

そのため,非定型抗精神病薬は,サイコパシー治療において有益かもしれない.ただし,副作用がある.

 

サイコパシーの遺伝的要因である,予測誤差および期待値情報に対する線条体およびVMPFCの応答性低下は,意思決定の障害につながる可能性があるものの,経験的に実証されていない.

 

扁桃体線条体,VMPFCは相互接続しており,ひとつの領域における早期の機能不全は,他の領域における機能不全に影響をおよぼす可能性がある.意思決定の障害によって,目標を達成できず,欲求不満になり,反応的攻撃性を発露する可能性がある.

反社会性サイコパスの脳

暴力犯罪の約25%は、サイコパスによるものだ。

しかし、サイコパスの殆どは暴力犯罪に加担しない。これは、暴力犯罪の発生率とサイコパスの発症率を比較すると明らかである。「暴力の解剖学」で紹介したように、反社会性サイコパスと一般的なサイコパスの違いは、前頭前皮質の機能」にある。

 

今回は、"Prefrontal Structural and Functional Brain Imaging findings in Antisocial, Violent, and Psychopathic Individuals: A Meta-Analysis" から、反社会性サイコパスの脳に見られる特徴をレビューしてみよう。

 

研究対象は「暴力犯罪者の前頭前皮質」であり、全43件の論文がメタ分析された。前頭前皮質はいくつかの下位領域に分けられ、それぞれの機能が両側半球について調べられた。反社会性サイコパスに特徴的な機能的異常は、次の3つである。

 

①左外側前頭前皮質 (左DLPFC):高度な認知機能 (注意、計画、自己抑制など) に関与する。左DLPFC損傷患者は目的志向行動 (実行機能) に問題がある。ADHDは注意欠陥や多動性が特徴の障害であり、DLPFCや線条体ドーパミンレベルが低いと言われている。この領域は、いわゆる「動作性IQ」との関連が大きい。

 

②右眼窩前頭前皮質 (右OFC):感情処理や意思決定、社会的行動に関与する。右OFC損傷患者は怒りっぽく、抑制に欠けた人物であることが多い。「逆転学習」が困難であり、ハイリターンな選択肢がハイリスクに変わっても、柔軟に反応を切り替えることができない。簡単にいえば、失敗から学ぶことが難しい。機械学習を用いた最近の研究では、OFCの厚みにもADHDの特徴が顕れることが分かっている。なお、"左”OFC損傷患者には、これらの機能異常は見られない (Bechara and Denburg, 2002). 

 

③右前帯状皮質 (右ACC):葛藤の検出やモニタリングに関与する。京大グループの研究では、サイコパスがためらいなく嘘をつく傾向とACCの活動低下に相関が見られた。つまり、サイコパスは「嘘をつくか正直にふるまうか」という葛藤が生じないために、平然と嘘をつくことができるのではないかと考えられている。ただし、この研究で示されたのは「"左”ACCの活動低下」であることに注意したい。より反社会的な選択肢間における葛藤では、右ACCの活動低下がより特徴的になるのかもしれない。

 

多くの研究がサイコパスと内側前頭前皮質 (VMPFC)の機能に関連を示しているものの、本研究ではギリギリ有意差が出なかった。これについては、サンプル数などの統計的問題が指摘されている。

 

 

 

「恐怖を知らない人たち」 サイコパスと利他主義者

 

要約

自分の身を犠牲にし他人の為に行動する「並外れた利他主義者」サイコパスよりも大きな扁桃体を持っており、恐怖表情の認識力が高い。これは、サイコパスに見られる扁桃体の機能不全および恐怖表情の認識障害と対照的である。

 

利他的行動は”感情的”なプロセスであり、”理性”や”熟慮”によって為されるものではない。また、「並外れた利他主義者」は謙虚であり、あたかもスーパーヒーローのように扱われることを苦々しく感じる。

 

 

並外れた利他的行為

定義

①行為を決定した時点では、本人は受益者と無関係である

②その行動は本人に大きな危険や代償を伴う

③その行動は一般人に期待されるような規範ではない

 

4階から落ちそうになっている子供を見た直後、壁をよじ登り救出する

見ず知らずの患者のために、無償で腎臓を寄付する。

 

 

「並外れた利他主義者」の扁桃体サイコパスよりも8%大きい。一般人と比べてどの程度大きいのかは不明。サイコパス扁桃体の機能不全をもち、利己的な動機で他者を平気で傷つけることができる。そこで、本書では利他主義者を「反サイコパスとして描いている。

 

 

サイコパス

筆者はジェームズ・ブレアの下で研究をしていたこともあり、「ブレアの仮説」に則ってサイコパスを説明している。それは次のようなものである。

 

サイコパスは生まれつき扁桃体に異常をもつ。そのため「暴力抑制装置」が正常に機能しない。「暴力抑制装置」とは、他者の”恐怖” 表情を認識することで自動的に暴力が抑制されるシステムのこと。扁桃体は恐怖表情の認識に重要な役割を果たす。

 

※詳しくは下の記事を参照

psycom.hatenadiary.jp

 

ある研究では、サイコパス”的な”大人は健常者よりも扁桃体が20%も小さいことが示されている。これでは、上述のように利他主義者とサイコパス扁桃体の大きさを比較しても意味がない。ちなみに、サイコパスは自分自身の恐怖にも無頓着。

 

興味深いのは、サイコパス的な子供に対して1~10点で幸福度を訪ねると、「10!」「11!」「20!!」と答える。彼らは逮捕歴があったり、退学処分を喰らっている。

 

 

いろいろな利他的行動

世の中にはいろいろな利他的行動がある。皮肉屋は「この世に利他的行動などない。全ての行動は利己的な動機に基づく。」と考えるかもしれない。その真偽はさておき、生物学的にみた利他的行動には次のようなものがある。

 

「包括適応度」

近親者は自分と似た遺伝子をもっている。なので、近親者を世話することで「適応度」を上げることは、自分の遺伝子をこの世に残すという意味で理に適っている。このように、近親者に対する利他的行動は「包括適応度」によって説明できる。

(厳密には、たまたま血縁者を気にかけるようになった個体の遺伝子が「包括適応度」で説明できるような形で繁栄しただけ、というべきか)

 

「互恵的利他行動」

過去に自分を助けてくれた人、あるいは将来自分を助けてくれそうな人に対して行われる利他的行動。私たちには「互恵的利他行動」がプログラムされているので、誰かから受けた恩は返さなければいけないと感じる。(返報性の原理)

 

しかし、「並外れた利他的行為」のように「他者の利益を目的とした自発的な行動で、しかも規範に従ったものではなく、しかも本人にとって重大な危険や代償を伴うもの」は、利他的な動機以外では説明できない。

 

 

恐怖顔の認識

恐怖の表情が認識されるルートは、その他の表情(喜び、驚き、怒りなど)とは異なる。恐怖表情に特異的なのは、大きく見開いた目(それに伴う白目の面積増大)である。私たちが意識できないほどの一瞬でさえ、扁桃体は活性化する。

 

恐怖と関連付けられた視覚情報は「網膜→上丘→扁桃体のルートを通る。これは恐怖表情に特異的なルートである。この素早い反応で引き起こされる反応は”情動的共感”である。これはちょうど、サイコパスには見られない反応であり、私たちはこれによって他者の苦痛を直感的に認識し、手を差し伸べようとする。

 

利他主義者の扁桃体は他者の恐怖表情に対して敏感に反応する。不安障害との違いは、彼らが軽蔑や怒りなど、あらゆるネガティブな表情に対して敏感なのに対して、利他主義者は「恐怖」に特異的に反応する点である。

 

オキシトシン

このような利他主義者に特有の反応は、オキシトシンによるものと考えられる。オキシトシン受容体の遺伝子変異が、恐怖表情や赤ちゃんの顔(どちらも白目が大きい)の認識に影響を与える。ある実験では、オキシトシンの投与によって恐怖表情の識別力が13%から20%増大している。

 

ここで重要となるオキシトシンの機能には大きく分けて2つある。ひとつは前述のように、恐怖表情を認識し共感的な反応を促すこと。もうひとつは、おびえた相手を避ける反応を抑制し、逆にその相手に近づき、世話をするように促すことである。

 

利他主義者の行動は一見勇敢に見えるが、彼らもまた恐れを抱いていることには変わりない。しかし、彼らはそれ以上に「相手を助けたい」という衝動に突き動かされている。

 

筆者は「並外れた利他的行動」を感情的・衝動的とみなし、理性的な熟慮では起こりえないとする。そのため、「反共感論」で紹介した内容とは対照をなすものといえる。上手くまとめるなら、規範は理性的に定めるべきである一方、実際の”並外れた”利他的行動は感情的に行われるものという理解に落ち着く。

 

また本書の内容は、「報酬を期待する脳」で紹介したことを連想させる。私たちが「向社会的な意思決定」あるいは「個人的な意思決定」のどちらを行うかは、各々の直観に基づくというものだ。向社会的な意思決定を直感的に行う人は、その際に扁桃体が活性化する。逆に、個人的な(≒サイコパス)は、個人的な意思決定を直感的に行っている。

 

このような視点は、ゲーム理論で扱われる”ハト派”あるいは”タカ派”として考えることができるだろう。どちらもメリットとデメリットが存在し、社会は均衡を模索しながら発展していく。次回はこの視点から利他主義と利己主義について考えてみる。

 

参考

 

恐怖を知らない人たち

恐怖を知らない人たち

 

 

サイコパスとソシオパスについて適当に語る

 

 

 

基本的にサイコパス冷淡な人、ソシオパス(=反社会性人格障害/ASPD)はキレやすい人として区別できる。

 

より専門的には、前者は情動障害、後者は衝動性と反社会的行動が特徴。最近ではASPDにも遺伝的な要因が示唆されているので、「先天的か後天的か」という区別はあまり役に立たない。(そもそもASPDの診断には”行為障害”が必要条件なので、「若い頃からうんぬん」は両者にとって重要な観点)

 

サイコパスにも「衝動性」や「反社会的行動」の特徴は含まれる。これらはサイコパシー・チェックリストにおいて”行動面”として記述される。言うまでもなく、”行動面”のスコアはASPDの診断とかなり相関する。一方、”情動面”はサイコパスに特異的

 

ブレアの仮説に則れば、「情動面」は扁桃体「行動面」は眼窩前頭前皮質の機能不全と関わりが深く、その程度はサイコパスの中でも個体間で異なる。所謂スペクトラム(連続体)という考え方で、「サイコパスである/サイコパスでない」の二元論は誤り。

 

眼窩前頭前皮質は酒・煙草・出産時合併症などの環境要因によるダメージが顕著で、コレが異常だからサイコパスなのか、サイコパスだから異常になったのかが微妙。有名なMAOA遺伝子変異はこれらの領域に異常をもたらす。しかし症状としてはソシオパス寄り。つまり”情動面”よりも”行動面”に対する影響力の方が大きい

 

一方、ソシオパスは社会がその人格を形成したと考える。すなわち、ある社会では適応的だったはずの人格が、他の社会に移り変わった瞬間に”反社会的”とみなされる。スラム街の人々が日本にやってくれば、彼らの多くはソシオパスと呼ばれるだろう。しかし、スラム街ではその人格は適応的(少なくとも反社会的ではない)かもしれない。問題は「郷に入りては郷に従え」ができない柔軟性に欠けた固定的な人格を有するということ。家庭や学校も社会とみなすことができる。虐待や非行はソシオパスを形成する。

 

 

話を戻すと、サイコパシーはスペクトラムなので複数の「サブタイプ」が考えられる。

 

行動面でスコアの高い「キレやすく反社会的なサイコパスは最も分かりやすく危険。カッとなって殺した割には「反省はしているが後悔はしていない」と言うタイプ。しかし、一見ソシオパスとは区別がつかない。

 

ソシオパスは反社会性それ自体が人格であるのに対し、サイコパスは反社会的手段を単なる合理的手段とみなす。自制心が欠如した者にとって合理的とは「手っ取り早さ」を意味する。前者が反抗期のヤンキーなら、後者はそれを暴力でコントロールする教師に喩えられる。もっとも、人格や合理性がどうのこうのは単なる憶測に過ぎない。

 

 

「自制心のある反社会的なサイコパスは狡猾。反社会的行動はリスクが大きいので、通常は自制される。それは罪悪感からではなく、捕まると損だからという理由。しかし一旦行為に及ぶと、そのスリルやメリットに味を占めてしまう。その際、犯行が”バレないように”行うことに関しては余念がなくタチが悪い。いじめの主犯格や詐欺師、小さい規模ではヒモやサボるのが上手な同僚とか。支配者型から寄生型まで様々。

 

パワハラやDVをする人については、それが「手っ取り早さ」からなのか「権力の誇示」なのかで区別できるかもしれない。つまり、サイコパスは頭ではそれが悪いことだと理解しているものの、人間をコントロールするには恐怖感に訴えるのが「手っ取り早い」ため、それを行う。マキャベリズム的な思想をもっており、普段はクレバーで残忍な上司・恋人かもしれない。

 

一方でナルシストやソシオパスは単純な”怒り”が動機。自分の思い通りにならない人間に対して純粋に腹が立つ。あるいは、過去に受けた精神的虐待の復讐かもしれない。自分はそうして過去から復権できるものの、後になって罪悪感から謝ることが多い。そうして相手は精神的優越を与えられ、共依存の沼に沈んでいく。このようなタイプは普段、傲慢で短気な人かもしれない。...というもっともらしい説明は可能だが、自己愛云々も非科学的で根拠は浅い。それよりも情動障害の有無が一番重要なポイント。

 

 

行動面に問題のない「向社会的なサイコパスは多様な形で潜んでいる。サイコパスは100人に1人と言われるが、犯罪者はそれほどいない。以下は個人的な印象。彼らは恐怖情動の欠如からリスクに無頓着で、大胆かつ刺激的な人物であることが多い。反社会性はないが退屈を嫌うためADHDと類似。しかし注意欠陥はなく基本的に冷静で感情の切り替えが早い。情緒的やりとりには共感性欠如により苦手とする点はASDに類似。しかし認知的共感力が高い場合には他者操作性があり口が達者で魅惑的かつ性的に奔放。合理主義者なので要領は良いが、他者への配慮に欠ける場合は傲慢で無責任な印象を同時に与える。利他性をもつ場合には聖人のような寛大さがある。健常な合理主義者との違いとしては、幼少期に情動障害特有のエピソードをもつ。(e.g. 良かれと思った行動で他人を傷つけた / 何かを怖がったり泣いたことがない)

 

彼らをサイコパスと呼ぶ必要性は疑問に値する。サイコパスという概念を推し進めてきた研究者は、”累犯性の予測因子”としてサイコパスの意義を主張してきたため。しかし、このような情動面の特徴は「Callous-Unemotional (CU)特性」と呼ばれており、遺伝的要因や神経発達的な側面からの説明によりASPDから分離できるかもしれない。サイコパスはさておき、CU特性は発達障害として正式に分類されるか、関連が示唆されているADHDに組み込まれるだろう。

 

 

サイコパスの先天的な情動障害は重要な概念だが、神経可塑性もまた馬鹿にできない。 

 

 

「反共感論」 -共感性と良心について-

 

私はこれまで、サイコパスには情動的共感性が欠けており、反社会的行動を学習する可能性が高くなるということを説明してきた。読者の中には「共感性の欠如=悪」という価値観を抱くようになった人もいるかもしれない。

 

それは大きな間違いである。たしかに情動的共感性の欠如は、冷酷な反社会的行動を行うのに必要な素質ではある。しかし、それ自体が悪なのではない。むしろ共感性の高さが原因で暴力が引き起こされる場合すらあるのだ。

 

今回はポール・ブルーム 著「反共感論」を参考に、共感性と良心の関係を見ていこう。著者は一貫して「情動的共感を道徳的指針とすることは間違いである」と論じている。

 

あらためて共感性について

共感の定義には色々ある。最もポピュラーな定義は「他者が経験していると自分が考えるあり方で、自らが世界を経験するようになること」だ。私がハンマーで自分の手を殴ろうとしているとき、あなたは眉一つ動かさず直視できるだろうか。おそらく、多くの人は顔をしかめてしまうだろう。

 

私自身がハンマーで殴ることを恐れていなくても、”もしあなたが私の立場なら” 恐ろしいと感じてしまう。このように、他者の経験を ”自分が考えるあり方で” 、情動を伴って経験されるものを特に「情動的共感」と呼ぶ。

 

一方で私は、あなたがハンマーで自分の手を殴ろうが気にしない。それでも、あなたの顔は恐怖で歪み、その行為を恐れているということは分かる。このように、情動を介さずに相手の感情を”他者視点で理解” するようなものを「認知的共感」と呼ぶ。

 

この例では、あなたはごくありふれた人間、私は情動的共感が欠如した人間として描いた。このタイミングで「どちらが良心的な人間だと思いますか?」と聞かれたら、多くの人は前者だと答えるかもしれない。 しかし意外なことに、道徳の指針として相応しいのはむしろ「認知的共感」の方なのだ。

 

 

情動的共感の問題

「中国では現在、11億9850万人が暮らしている。これが何を意味するかを感じるには、単純にあなたの独自性、重要性、複雑性、愛情を取り上げて119850万倍すればよい。そこに何か感じるだろうか?何も感じないはずだ。」 アニー・ディラード

 

 

情動的共感はスポットライトに喩えられる。

共感の対象となるのは一人か、せいぜい数人程度だ。それは温かく情緒的ではあるが、一方で共感の対象とはならなかった人々に対しては盲目的である。さらには数的感覚に欠け、共感の対象となった人に対してさえ、近視眼的な行動が引き起こされてしまう。

 

少し前に日本では麻疹が流行した。当時、親の多くは子供にワクチン接種を受けさせることを望んだだろう。だが大抵の子供は注射を嫌がるものだ。そこで泣け叫ぶ姿に共感し診療をやめてしまえば、命を落とすような事態になるかもしれない。

 

このように、他者の苦痛に囚われていると、苦痛に陥った人々を長期的に援助することが困難になる。というのも、長期的な目標を達成するためには短期的な苦痛を与えざるを得ない場合が多々あるからである。

 

このことは、医者の立場を考えてみるとより明らかだ。患者の苦痛に共感してしまう医者は狼狽しきって手術やセラピーどころではない。高い共感性は社会的に望ましい資質であると考えられがちだが、それは認知的共感に限られる。

 

 

また、情動的共感は自動的に起こるものであり、そこから引き出される主観的な言動は、共感の対象とならない人にとって”独善的”に映ることが多々ある。

 

私たちはネコを虐待している人を見ると、その人を罰したくなる感情に駆られる。それは「ネコに共感したからだ」と解釈できるが、よく考えてみると、”ネコ自身が” その人を罰することを望んでいるかなど、私たちには知る由もない。

 

つまり情動的共感は、認知的共感が「その人が実際に望んでいるであろう行動」を導くのとは対照的に、「相手の立場に置かれたときに”自分が”望むであろう行動」を自動的に引き起こそうとする。たまたま自分と相手の望みが一致すればよいのだが、多くの場合はそうではない。実際、そのようなケースは身の回りにありふれている。

 

 

そうはいっても、情動的共感が良心的な行動を導くと考える人も多いだろう。たとえ情動的共感がスポットライトのように範囲が狭く、数的感覚に欠けた近視眼的なものであれ、ヒトは他者の苦痛を自分事のように感じることで、良心的な行動を取るようになるのだ。と考えるかもしれない。これはまさに「道徳的社会化」である。

 

私は実際、サイコパスの病理を解説する上でこのような説明をした。すなわち「サイコパスは他者の苦痛を代理経験できないために、非道徳的な行動ですら合理的手段として学習できてしまう」というものだ。

 

しかしそれは、情動的共感をもつ人が善人でサイコパスが悪人であるという意味ではない。厳密に言えば、サイコパスは先天的な悪人ではなく「反社会的行動を手段として学習しやすい素質を先天的に有する人間」だ。そして、実際にそれを学習してしまった ”反社会的な” サイコパスにとって致命的な問題は、もはや「共感性の欠如」ではなく「自制心の欠如」にある。

 

 

さらには、情動的共感性が直接的に良心的行動を導くという論理には飛躍がある。自分が愛情を注いでいる娘が苦しんでいるとき、あなたは彼女の苦痛に共感して彼女を抱き上げ、苦痛を追い払おうとするだろう。たしかにそれにより自分の気分もよくなるので、「情動的共感が良心的行動を導いた!」と考えたくもなる。

 

しかし、単に代理経験している自分の苦痛を追い払いたいだけなら、泣き叫ぶ娘を放って散歩に出かければよい。 そうしないのは、あなたに純粋な利他心があるからだ。すなわち情動的共感は、情動に訴えかけることによって、より直感的に誰かが苦しんでいることを私たちに教えてくれる。情動的共感は親切心を導くのではなく、むしろ既存の親切心を助長する形で機能するのだ。

 

逆に、親切心がなく他者の苦痛に対して快楽を抱くサディストにとって、情動的共感性は嗜虐心を助長する形で機能する。勘違いされるところだが、情動的共感性が欠如したサイコパスにそのような趣味はない。ただ泣き声を煩わしく感じるだけである。

 

次に、路上でホームレスが物乞いをしていた場合を考えてみよう。人はしばしば、そのような姿を目にすると反対側の道を通りたがる。こうした行動は、共感による苦痛を利己的に回避した結果といえる。

 

時にサイコパスは、健常者よりも積極的に人助けをする場合がある。というのも、彼らは他者の苦しみを代理経験せず、ただ相手の感情や求めているものを認知的共感のみに頼って明晰に理解するためである。そこから引き出された行動は純粋な親切心の顕れであるかもしれないし、将来的な利益を見込んでのことかもしれない。

 

 

本書の主張をまとめると、主観的かつ不公平な道徳的指針が不適切なのは自明なので、そのような性質をもつ情動的共感ではなく、理性的な認知的共感によって他者を気遣うべきである というものだ。

 

 その意味において、サイコパスは完璧な聖人にも完璧な悪魔にもなりうる。しかしサイコパスは一般に、情動的共感が欠如した人間ではなく「反社会性パーソナリティ障害」と同列に認識されている。

 

最近、これに関して興味深い議論を見かけた。それは次のようなものである。

サイコパスはいずれ”発達障害”として分類される。そしてこれまでの発達障害に関する事例を鑑みるに、サイコパスへの差別も同様に非難されるべき問題ではないか?」

サイコパスの根本的原因には遺伝的要因が関与する。そのため、サイコパスによる犯罪には免責の余地があるのではないか?」

 

 

サイコパスはマイノリティであり、マイノリティの差別は許されるべきではない。また、彼らを犯罪行為に駆り立てるような遺伝的負因を有するのなら、彼らの犯罪は完全な自由意志ではなく、ある程度の決定論的要素を孕んでいる。したがって、差別を許すべきではないし、免責の余地はある。

 

 

直感的には、この論理は理に適っているように聞こえるかもしれない。しかし、それこそがサイコパスに対する情動的共感がもたらす道徳観である。

 

あなた自身がこの問題を考えるにあたって今回の内容を実践するなら、立てるべき問いは「あなたがサイコパスの立場なら望むであろうことは何か。」ではなく、「サイコパスが実際に望むであろうことは何か。」である。それと同時に、共感の対象から外れた人々 のことも考慮すべきだろう。

 

 

参考

 

反共感論―社会はいかに判断を誤るか

反共感論―社会はいかに判断を誤るか

 

 

 

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”サイコパスの神経学的仮説”

 

この章ではついに、「サイコパスはなぜ情動障害をもち、道具的攻撃性を示すのか」を説明する。この章は難しい上に長いので、はじめに簡単な結論を示しておく。

 

サイコパスは遺伝子異常によって、不快な刺激に対する扁桃体の反応性が低下するため反社会的行動を手段として学習し、社会化が阻害される。

 

しかし、この説明は簡単すぎて誤解を招くうえ、因果関係が明らかではない。なぜ扁桃体の異常が道具的攻撃性の学習につながるのだろう。

 

これより先では、この点について詳細な説明をしていく。

 

 

統合的情動システム(IES)モデル

そもそも情動とは何か。

それは脳内でどのように生まれ、処理されるのだろう。

 

扁桃体は恐怖などの情動を司る」という説明を聞いたことがあるかもしれない。しかし、扁桃体が「恐怖情動を生成→処理」という全てを行うはずもなく、複数の領域が互いに関与している。現時点でもっとも有力な情動モデルは「統合的情動システム(IES)モデル」と呼ばれるものである。これを次に示す。

 

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この図を落ち着いて眺めてみると、①、②、③のルートが描かれている。

まずは①のルートを見てみよう。

 

SCは「感覚連合皮質」であり、あらゆる五感情報がここで統合される。

 

あなたが恐怖を経験するためには、まず恐ろしいものを「見たり」「聞いたり」する必要がある。そのような五感情報がSCに集積する。しかし、この時点で”恐ろしい”という感情は生まれていない。ただ単純に、これから先で「恐怖」と認識されるような何かを「見たり」「聞いたり」しただけである。

 

続いて、SCの五感情報はBLAとCeNに送られる。

重要なことに、扁桃体は大きく「外側基底核(BLA)」「中心核(CeN)」に分けられる。①のルートにおいて、BLAおよびCeNは、SCと双方向の連絡をとっている。

 

そのため扁桃体「感覚形成の調節機能」をもつと考えられる。つまり、扁桃体に送られた五感情報はここでようやく”恐ろしい刺激”というラベルが貼られ、処理が開始する(詳しくは後述)。

 

 

次に②のルートを見てみよう。

①からやってきた感覚情報がCeNに送られ、②のルートでURが引き起こされている。

 

URとは「無条件反応」のことであり、恐怖でいえば「すくみ反応」や「心拍数の増加」などがそうである。ここでも省略されているが、脳幹や視床下部という領域がURを引き起こす。

 

いわばCeNは「”恐ろしいもの”を見たので、心拍数を上げてください」という命令を脳幹などに送る。このような恐怖の感覚情報に基づいた身体状態の変化こそ「恐怖情動」と呼ばれるものだ。

 

恐怖情動は発汗や心拍数増加などの”身体状態の変化”を伴う。これを知覚したとき、僕らは「恐怖の感情」(=”恐ろしい”というあの感じ) を経験する。

 

このルートからは、CeNが「内臓機能を調節する機能」をもつと考えられる。

 

 

最後に③のルートを見てみよう。

vmFCとは「腹内側前頭前皮質」のことで、おなじみ「内側部」の一部だ。

 

ある目的の為に行動する「目的志向行動」には、これらの領域が関与する。そして扁桃体のうちBLAは、vmFCと直接の連絡をもっている。したがってこのルートからは、「BLAが目的志向行動に影響を及ぼす」ということが分かる。

 

 

まとめると、扁桃体はBLAとCeNに分けられ、「感覚形成の調節」にはBLAとCeNが、「内臓機能の調節」にはCeNが、「目的志向行動」にはBLAが直接関与する。

 

 

扁桃体の学習機能

「嫌悪条件づけ」とは、条件刺激(CS)無条件反応(UR)を引き出すように学習する過程のことだ。具体例で考えてみよう。

 

マウスに電気ショックを与えると、マウスはその場から逃げようとする。一方、ブザー音の直後に電気ショックを与えると、そのマウスはブザー音を聞いただけで身体をこわばらせ「すくみ反応」を示すようになる。

 

このように、本来「恐怖」とは無関係な刺激(条件刺激)によって「恐怖」の反応(無条件反応)を引き出すように学習させることを「嫌悪条件づけ」と呼ぶ。

 

ここでブザー音は条件刺激(CS)電気ショックが無条件刺激(US)逃避行動は無条件反応(UR)である。(すくみ反応については後述)

 

 

さて、扁桃体は嫌悪条件づけにおいて3つ連関を形成する。すなわち、

Ⅰ:CS - UR連関にはCeN

Ⅱ:CS - 感情表象連関にはBLA

Ⅲ:CS - US連関にはBLAが必要である。

 

 

ここでもう一度、IESモデルを見てみよう。

 

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CSの五感情報はSCに集積し、①のルートでBLAあるいはCeNに情報が伝達され、最終的にURが起こる。このうち、「CS→SC→CeN→UR」「CS-UR連関」による条件づけである。

 

たとえばお腹の空いた犬は、エサを提示されるとヨダレを垂らす。そしてエサの提示と同時にベルの音を聴かせると、犬はベルの音(CS)を聴いただけでヨダレを垂らす(UR)ようになる。これが、CeNによるCS-UR連関形成である。

 

ちなみにこの連関は扁桃体を介して形成されるものの、連関自体は島に蓄積すると考えられている。つまり、一度CS-UR連関を形成してしまえば(ベルの音で唾液が分泌されるよう条件づければ)、その後に扁桃体を破壊しても条件づけは維持される。

 

 

一方、「CS→SC→BLA→CeN→UR」のルートでは、BLAの登場により「CS - 感情表象連関」が可能となる。感情表象とは、刺激に対する情動状態のラベル(恐怖や報酬期待など)のことだ。

 

平たく言うと、条件づけされたマウスは「ブザー音 = 恐ろしいもの」と認識していたので「すくみ反応」を示したのである。通常、電気ショックに対するマウスのURは「逃避反応」なので、CS-URとCS-感情表象は異なる反応を引き出すという点でハッキリと弁別できる。

 

したがって、マウスがブザー音によって逃避反応を示せばⅠのルートで、すくみ反応を示せばⅡのルートで条件づけが行われたことになる。

 

実際、BLAを損傷したマウスはCS-感情表象連関が形成されず、それに関与する特定の課題において障害を示す。一方、CS-UR連関は正常のままである。

 

 

サイコパスは有毒ガスの臭い(US)と中立顔(CS)を対提示した後でも、CSによる皮膚電気反応が起こらない。

 

これは、CS-UR連関あるいはCS-感情表象連関の機能不全なので、サイコパス扁桃体の機能不全を有することを示している。

 

また悲しみの表情想像上の恐怖場面恐怖予測情動を喚起する音声などのCSに対しても自律神経の反応性が低い。

 

このあたりの嫌悪条件づけ理論については、今後詳しく紹介していこう。

 

 

扁桃体と刺激選択バイアス(注意)

”注意”とは、複数の刺激が存在するときに起こる、互いの表象をめぐる競争の結果であると考えられている。

 

たとえば、今ここにAとBの絵があるとしよう。実験者から「Aの絵を見てください」と指示された場合、あなたはAに注意を向けることができる。これは、課題要求に応じてAの表象を強化したからである。このように、課題要求は感覚表象を強化するトップダウンの影響として注意に関与する。

 

一方、課題要求がなくともAの絵それ自体が情動を喚起するものである場合には、中立的なBの絵よりもAに自然と注意を向けてしまう。このように、”刺激の強さ”は感覚表象を強化するボトムアップの影響として注意に関与する。

 

 したがって、複数ある刺激のうち、どの刺激に注意が向けられるかはトップダウンボトムアップの二つの影響により決定される。

 

 

ここで、情動と注意に関するIESモデルを見てみよう。

 

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側頭皮質には2つのドット(感覚表象)が存在し、それらは互いに競合状態(-)にある。この競合に勝利した方の表象に注意が向けられる。

 

課題要求(左のドットを見ろという指示)はACC(前帯状皮質)DLPFC(背外側前頭前皮質)で処理され、側頭皮質において左のドットに対応する表象を強化するようなトップダウンの影響を及ぼし、左のドットが競合に有利となる状態をつくっている。

 

一方で扁桃体は、右のドットに対してボトムアップの影響を及ぼし、対応する表象が強化されている。つまり、右のドットは情動的な刺激を表している。

 

この図では最終的に左のドットが競合に勝ち、課題要求された反応が運動系により引き起こされたことが分かる。

 

 

具体的にイメージするため、次の課題を行ってみよう。

 

課題:下の絵の中から真顔を見つけたら、次の文を読んでください。

 

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右下以外のヘンテコな絵は妨害刺激である。これらは真顔と比べて”刺激の強い”もの、すなわち扁桃体からのボトムアップ的な影響を受け、感覚表象が強化されるような絵である(右のドットと呼んでいたもの)。

 

一方、課題要求は真顔に注意を向けることだったので、あなたのACCとDLPFCは真顔の感覚表象をトップダウン的に強化し、真顔の表象を他の絵との競合に勝利させようとする(左のドットを競合に勝たせ、要求された反応を引き出す)。

 

それに成功したあなたは、課題要求に対応する反応として運動系を用いて画面をスクロールし、今この文章を読んでいるのである。

 

 

さて、この例からは扁桃体「情動的な刺激の表象を強化する(注意を向けやすくする)機能」を持つことも分かった。

 

実際、サイコパスは情動的な刺激によるボトムアップの影響を受けにくいことが示されており、このことは扁桃体機能不全仮説を支持する。

 

 

扁桃体と道具的学習

 「受動回避学習」と呼ばれる課題がある。受動回避学習では、ある刺激に反応すれば報酬が得られ、別の刺激に反応すれば罰を受ける。(報酬の”ために”反応したり、罰を回避する”ために”反応しない、という道具的な学習)

 

たとえば明室と暗室を用意しておき、マウスが暗室に入ると電気ショックを与える。そのうちマウスは「暗室=不快なもの」というCS-感情表象連関を形成し、暗室へ入ることを受動的に回避する。

 

このように、ある刺激に対して”良い”あるいは”悪い”というラベルを貼るにはBLAが必要であり、扁桃体損傷は受動回避学習を阻害する。

 

 

一方で、別の道具的学習に「条件付き学習課題」がある。条件付き学習課題では、ある特定の刺激に対して特定の運動反応を実行する学習である(たとえば、緑の光が点灯すれば左のボタン、赤の光が点灯すれば右のボタンを押す、といった風に)。

 

この課題では、受動回避学習とは対照的に「緑の光=”良い”」や「赤い光=”悪い”」などのラベルは貼られない。なぜなら、報酬を得るか罰を受けるかはその人の”反応”によって決まるからである。

 

この課題では、「緑の光→左のボタンを押す」「赤い光→右のボタンを押す」というように、「刺激-反応連関」と呼ばれる扁桃体を必要としない連関が形成される。したがって扁桃体損傷はこの課題を阻害しない。

 

 

扁桃体機能不全仮説をもとに考えた場合、このようなデータから、サイコパスは「受動回避学習」で障害を示し「条件付き学習課題」では障害を示さないと予想できる。そして実際、そのような結果が得られている。

 

ここまでが、サイコパスの情動障害と情動学習障害の説明となる。最後に、現実に即した形でサイコパスの道具的攻撃性を説明してみよう。

 

扁桃体機能不全仮説:道徳的社会化

IESモデルを用いて暴力を抑制するメカニズムを示すと、次のようになる。

 

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一般に、他者の苦痛や恐怖などの嫌悪刺激(US)を知覚すると「こわばり、逃避行動、反応的攻撃+覚醒度の上昇(UR)が生じる(戦争の様子を想像してみるといい。確かにこのような反応が起こりそうだ)。

 

さらに健常者の場合、「道徳違反(CS)と他者の苦痛(US)の連関」が可能であり、道徳違反をみたり考えたりするとURが起こるように条件づけられる。さらには「道徳違反="悪”」というCS-感情表象連関も道徳観の形成に関与する。

 

これが、健常者が暴力を控えるメカニズム(道徳的社会化)である。しかし、扁桃体機能不全を有するサイコパスはこれらの嫌悪条件づけが起こらず道徳的社会化を経験しないため、反社会的行動が抑制されない。

 

 

ちなみに反社会的行動をとった子供に体罰を行う家庭では、その意図に反して「身体的苦痛(US)と反社会的行動(CS)との連関」は形成されない。むしろ「身体的苦痛(US)と体罰を行う親(CS)との連関」が形成されてしまう。

 

非行少年は体罰を受けるかもしれないが、それによって反社会的行動は抑制されない。むしろ「親-体罰-不快」という連関が形成されるだけである。(要するに嫌われる)

 

 

反社会的行動を行うときに無条件嫌悪刺激(US)となるのは「犠牲者の苦痛」ある。つまり健常者は、反社会的行動を企図したり実行したとき、他者の苦痛によって”罰せられる”のだ(罪悪感)。

 

しかし、サイコパスでは「他者の悲しみや恐怖の表情」が嫌悪刺激として作用しない。さらには幼少期から表情認知能力に障害が見られる。

 

反社会性を低める方法のひとつは「犠牲者に対する共感性を高めること」であるが、養育者が共感性をうまく引き出すような方法をとっても、サイコパスの情動的機能不全を示す子供に対しては、そうした効果がみられない。

 

これが、サイコパスは”治らない”と言われる所以である。

 

 

扁桃体機能不全仮説の限界

本書の考えをまとめると、次のようになる。

 

サイコパスは、扁桃体によってなされる感情表象の活性化が障害されているために、反応性あるいは学習が低下している。感情表象は、他者の恐怖や嫌悪によって活性化される。

 

これらの表象に対する反応性が低下することにより道徳的社会化が妨げられ、結果として、自分の目標達成の手段として反社会的行動を学習する危険性の高い者となる。

 

この仮説により「良心の欠如」はもちろん、「共感性の欠如」や「罪悪感の欠如」「恐怖・不安の欠如」などの”情動障害”と呼ばれる臨床的特徴、また道具的攻撃性の神経メカニズムを合理的に説明できる。

 

 

しかし次のようなデータから、この仮説をある程度”限定”する必要性が示される。

 

CS-感情表象連関において、感情表象は大きく分けて”ポジティブ””ネガティブ”の2通りがある。実は、サイコパスは否定的な刺激(他者の苦痛や恐怖)について反応性の低下を示すものの、①肯定的な刺激の処理については障害をそれほど示さない。

 

そして、自然な表情をした人の写真を提示し、その人が信頼できるかどうか判断するように求めた課題では、健常者は信頼できない人と判断した顔に対して扁桃体の活性が高まることが示されている。

 

さらに、目の周辺だけの情報に基づいてその人の複雑な社会的情動について判断を求めた課題でも、遂行中に扁桃体が活性化されることが示された。

 

扁桃体損傷がある患者はこれらの課題をこなすことができないにもかかわらず、サイコパス②「信頼性」と「社会認知」の課題で障害を示さない。

 

つまり、サイコパス扁桃体機能のすべてが障害されているわけではなく、「刺激-罰連関」の形成が選択的に障害されていることが示唆される。

 

したがって、サイコパスの根本的原因は遺伝子異常であり、特定の神経伝達物質の阻害が刺激-罰連関形成の機能を特異的に低下させていると予想できる。

 

 

どの神経伝達物質が機能不全なのかは明らかではない。可能性として、ストレス/脅威刺激に対するノルアドレナリンの反応が阻害されていることが示唆される。

 

その根拠として、ノルアドレナリン嫌悪手がかりによって意思決定を調節していることが示されている。(罰と連関した刺激を回避するかどうかは、ノルアドレナリン作動性ニューロンによって調節されるということ)

 

またノルアドレナリン悲しみ表情の認知に影響を与えること、反社会的行動/行為障害に関連することがこの仮説をさらに支持する。

 

 

Question

  • 本章で紹介した扁桃体の機能はどのようなものか。

 

答え:IESモデルからは「感覚形成の調節(SCとの連絡)」「内臓機能の調節(脳幹との連絡)」「目的志向行動の調節(vm FCとの連絡)」の機能をもつことが示唆され、条件づけに関しては「CS-US連関(BLA)」「CS-感情表象連関(BLA)」「CS-UR連関(CeN,BLA)」の形成に必要。注意に関しては「情動刺激に対するボトムアップの影響」をもつ。

 

このうち、BLAによる「CS-感情表象連関」、特に「刺激-罰連関」の形成は道具的学習と密接にかかわり、サイコパスが顕著な障害を示す学習機能のひとつである。

 

 

答え:ある遺伝子異常が扁桃体「刺激-罰連関形成」を阻害する。これにより、たとえ自分の反社会的行動(CS)によって他者の苦痛(US)が生じても「CS-US連関」や特に「CS-感情表象連関」は形成されず、嫌悪条件づけが起こらない。すなわち反社会的行動の企図(CS)は「こわばり、回避反応」などのURを引き起こさず、反社会的行動が抑制されない。したがって、目的を達成するための手段として反社会的行動を学習してしまう。

 

  • IESモデルを用いると、良心や罪悪感はどのように説明できるか。

 

答え:良心は道徳的社会化によって形成される。道徳的社会化には嫌悪条件づけが必要であり、健常者では”悪いこと”を企図したり実行するとUS(被害者の苦痛)や感情表象(この行為は”悪”である)、不快なUR(こわばり、回避反応、覚醒度の上昇)が引き出されることを学習し、道徳違反が抑制・回避される。

 

罪悪感とは、”学習された”CS(道徳違反)を行うことで、上記のUSおよび感情表象、そしてURが引き出された情動状態を指す。より厳密には、その情動状態を”知覚”したときの「感情」が罪悪感であると考えられる。サイコパスは”学習していない”のでCSによって罪悪感は生じない。

 

「悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ」というジェームズ=ランゲ説に則っていえば、罪悪感を抱くから”善人”なのではない、”善人”だから罪悪感を抱くのだ。つまり消極的な(非サイコパスという意味で)善人とは、道徳違反が嫌悪条件づけにより抑制されている人である。

 

 

 

答え:ほぼあり得ない。サイコパスに関与する扁桃体の機能不全は遺伝子異常が根本的原因であると考えられる。つまり、サイコパスの発症リスクはある程度遺伝的に定められている。また後天的に扁桃体を損傷しても、それまでに蓄積されたCS-US連関やCS-感情表象連関は島に保存されているため、道徳違反が”悪”であるという認識を失ったり、非道徳的に振る舞うといったことは起こらない。

 

しかしながら、関連遺伝子の後天的遺伝子修飾や環境要因による扁桃体の異常がサイコパスの発症を引き起こさないわけではない。原理的には、早い段階(連関形成以前)で扁桃体の特定の部分を損傷すれば後天的サイコパスになりうる。また、島の連関を”消去”することが可能かもしれない。

 

 

 

答え:遺伝子異常により情動障害を有するものの、恵まれた環境や優れた知性をもち、ある目的を達成しようとする際、反社会的行動以外の手段をより多く学習しているサイコパスのこと。なぜ他の手段を取るのかについては、刺激-報酬連関形成による社会化が功を奏したのだと思われる。つまり、手っ取り早く反社会的行動に訴えるよりも、長期的にみれば向社会的な手段で目的を達成する方が自身にとっても合理的であると学習したサイコパスと考えられる。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-