サイコパスを操作する

サイコパスから学ぶ

身近に潜むサイコパス

そもそもサイコパスとは何者なのだろうか。

最近よく耳にする言葉だが、その意味を知っている人は少ない。

サイコパスの意味を理解すると、周りの人間が誤解するほど本物のサイコパスが得をするようになっていると気が付く。しかしサイコパスとは非常に捉えがたい概念であり、容易に他人をサイコパスだと決めつけられるものではない。そして、精神障害として「サイコパス」という分類は存在しない。

 

「反社会性パーソナリティー障害」が類似概念として挙げられるが、後述するように必ずしもサイコパスが反社会性をもっているわけではない。「ソシオパス」という言葉もサイコパスと同義で、学者の分野による好みで分類されている。いずれにせよサイコパスの実態は曖昧なものである。

 

とりあえず、PCL-R(サイコパシー測定テスト)に基づいてサイコパスの特性を見ていこう。

 

【対人面】

・口がうまい/表面的な魅力

・過大な自己評価

・病的な嘘

・他人をだます/操る

 

【情動(感情)面】

・良心の呵責や罪悪感がない

・情動が希薄

・冷淡/思いやりにかける

・自分の行為に責任がもてない

 

生活様式

・刺激を求める/退屈しやすい

・寄生的な生活

・現実的/長期的な目標の欠如

・衝動的

・無責任

・放逸な性行動

 

【反社会性】

・暴走しやすい

・幼児期の問題行動

・少年非行

・仮釈放の取り消し履歴

・犯罪の多様さ

・数多くの婚姻関係

 

これらの項目に該当するほどサイコパス特性が高い。これを見て、サイコパスは「危ないヤツ」だと思ったはずだ。実際、このPCL-Rは「サイコパス=犯罪者」と考えて作られたものだ。

 

しかし、サイコパスとは「そうである/そうでない」の二択ではなく、ある面(たとえば対人面)においては高得点でも別の面(反社会性)では低得点のサイコパスも存在する。サイコパス研究者のケヴィン・ダットンが言うように、サイコパシーはミキシングコンソールの複数の調節つまみで奏でられる音声のようなものだ。総合得点が同じでもそれぞれの因子の得点はサイコパスの数だけ異なる。要するに、「サイコパス=犯罪者」ではない。反社会性が高い「負け組のサイコパス」は、刑務所に入っているだろう。

 

いま僕らが問題にしているのはもっと厄介な存在であり、法律の網では捕らえられないレベルで迷惑な「勝ち組のサイコパス」だ。彼らは周囲の人間を欺き、利用し、最後には捨てているだろう。それすら気づかず搾取され続ける人間もいる。

 

 彼らはなぜ、サイコパスとなるのだろうか。

ジェームズ・ファロンの「三脚理論」では

①神経学的要因:脳機能(感情や良心にかかわる領域など)不全

②遺伝学的要因:戦士の遺伝子(攻撃性を助長する)などをもっている

③環境要因:幼児期の虐待など

これら①~③の要因が重なり合い、特に危険なサイコパスが生まれるという。(ジェームズ・ファロン自身もサイコパスだが、家族に愛され育った結果、反社会性は低く、彼のサイコパスは一つの能力として役に立っている。単なる障害ではなく能力とも考えられる点や定義の曖昧さがサイコパスの理解をややこしくしている。)

 

ここで重要なのは「サイコパスは死ぬまで治らない」ということだ。

①~③の要因をよく見ると、サイコパスを"まともな人間"に変えることは容易ではないと分かる。脳や遺伝子、過去は変えられない。彼らは普通の人と異なる様式で書かれたプログラムのようなもので、被害者の声を聞いても共感や罪悪感といった回路が作動せずエラーを起こしている。現実世界では、ただ周りの人間を観察して「こういう時は悲しそうにすればいいんだな」と学んだからそうしているだけだ。

 

「良心をもたない人たち」の著者であるセラピストのマーサ・スタウトも、サイコパスにはできるだけ関わらないことを勧めている。(セラピストはふつう、このような助言はしない。本人もこれを"例外的に"と強調している)。彼らの多くはサイコパスである自分に満足しているため、変わる必要性を感じていない。周囲の人間が彼を”治そう”としても、無駄な徒労だ。ましてや無知な人間が興味本位で近づくことは自殺行為だ。というわけで、サイコパスに対しては避けることが最善手となる。

 

したがって、これから述べる「サイコパスを操作する方法」は危険な行為になるだろう。逆に利用されるリスクがある上、ある意味では、あなた自身がサイコパスに近づくことに等しいからだ。それを望まない場合は読む必要はない。しかし一部の人間に対して「良心の呵責を感じない」「感情が希薄」といった特性が有用に働くということは見落とされがちである。どんな人間にも学ぶべき点はある。

  

ここまで読んで、冒頭の「周りの人間がサイコパスを誤解するほど、本物のサイコパスが得をするようになっていると気が付く。」と言った意味が理解できたはずだ。「明らかにサイコパスである人間」は稀な存在で、むしろ注意すべきは一見魅力的な「明らかにいい人間」の方なのだ。サイコパスに対する誤解は、こうした盲目さを助長している。

 

 

診断名サイコパス―身近にひそむ異常人格者たち (ハヤカワ文庫NF)

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サイコパス・インサイド―ある神経科学者の脳の謎への旅

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良心をもたない人たち (草思社文庫)

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