対人操作は水面下で行われるので、誰も気が付かない。
その手口は実に巧妙で、良心など微塵も感じさせないものだ。
今回は ジョージ・サイモン著「他人を支配したがる人たち」から、実際に対人操作がどのように行われたのか見ていこう。(難解なので一部省略して引用した)
ベティはこの会社にとって欠かせないひとりだ。その点ではみんなの意見も一致している。難しい案件では、社長でさえベティの能力を当てにしている。
ある日、ジャックが新任の役員補佐として入社した。彼が会社を改善してくれることに社員達は期待を寄せた。ベディは、ジャックが会社のことを一から勉強できるよう、自分も力を尽くすと社長に告げた。
ベティはたしかに役に立った。ジャックの肩はもったが、彼の改革案は効果などあまり期待できるものではなかったのだ。だが社長には「ジャックは真剣だ。ただ、そのアイデアは十分に練られたものではない」という趣旨の報告を欠かさなかった。
ベティがいささか驚いたのは、ジャックの改革案について賛同するものがぼちぼちと現れはじめたときだった。さらに、週ごとの報告で聞いていた社長のコメントの調子が変わり始めたのだ。
「しっかり目を光らせてくれてありがたい。」そんなコメントがめっきりと減り、代わりに「はじめはジャックの考えはよくわからなかったが、いまになってようやくその意味がわかってきた」「社員もジャックの改善計画は支持している様子だ。どうやら、ジャックを選んだ我々の目に狂いはなかったようだ。」と。
けれど、おそらくベティが一番驚いたのは、日を追うにしたがって自分の仕事が減っていく事に気がついたときだったかもしれない。
ある日、ベティは社長夫人と昼食を一緒にすることがあり、社長とジャックが個人的にも親しくしているのを知って驚いた。また社長個人について、自分も知らない突飛で頑固な一面があったのは初耳で、以前雇っていたお抱え運転手がゲイだと知ってクビにしたこともあったらしい。
しばらくしてベティは友人を相手に、こんな話を始めた。
「どうしてもあなたに知っておいてほしいのは、ジャックの計画は目先だけで、その点で私はジャックに賛成することはできないの。もちろん、個人的にはジャックのことは好きよ」
そう言い張ると、こんなふうに話をつづけた。
「ジャックの あの件 についてはあれこれ口にしている人もなかにはいるわ。でも、そんなことは私にはちっとも問題じゃないの。彼の好みが女性だろうと男性だろうとね。」
ジャックは、社長のあいだにできた溝がどんどん広がっていくことに悩んでいた。これまでの親密な関係がこうも簡単にだめになってしまう理由など、彼には思いもつかなかった。ジャックが会社を去った日、ベティを除く全員が驚いていた。「結局ジャックもこの仕事には向いていなかっただけ。」ベティは自分にそう何度も言い聞かせ周囲にもそう語った。
この会社にとって何が一番大事かを知っているのは、やはり古くからいる自分しかいない。しかし、ジャックやその後任を考えている人たちのことで気をもんでいる時間は自分にはもうない。山ほどの仕事がベティを待っているのだ。
前半部で、ベティはすでに社長から好意と信頼を得ていたことが分かる。そしてジャックの改革案が日ごとに賛成を得はじめ、ベティの仕事が減るようになっていたことが分かる。ジャックの存在がベティの地位を脅かすようになったのだ。
問題は後半部だ。
ある日、ベティは社長がゲイのタクシー運転手を解雇した話を聞く。社長はゲイに対してコンプレックスを持っていたことが分かる。そこでベティは友人に対して、ジャックがゲイであることを仄めかす。ジャックがゲイであるという噂が社長の耳に入り、ジャックは立場を追われることになった。こうしてベティは地位を守り抜いた。という話だ。言うまでもなく、ジャックがゲイであるというのは嘘だ。
これ以上の説明は不要だろう。
ベティは、社長を含め周囲の好意と信頼を得ている。そして自分の望みを叶えるために社長のコンプレックスを利用して操作した。これは、前回の記事に書いた流れだ。
社員達はジャックがゲイであるという噂を広めた。
社長は、自分のコンプレックスを自覚していなかった。
このような無知は、サイコパスにとっては操作する上で実に利用しやすい。
コミュニティには噂がつきものだが、噂に踊らされるようでは発信者の思う壺だ。また、他人にコンプレックスをさらけ出すのは、自分の弱点を教えているようなものだ。普通の人は寧ろこのような行動を好む傾向がある。場合によっては注意すべきだろう。
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