科学的にサイコパスはどう見えるのか。

今回は、ジェームス・ブレア著「サイコパス -冷淡な脳-」を参考にして、あくまでも科学的に、サイコパスについて学んでみよう。

少し難解かもしれないが、サイコパスについて詳しく知りたい人には最適の本だ。

ここで扱うのは彼らの攻撃性とその背景、サイコパスの根本的な原因、そして知性との関係だ。それでは始めよう。

 

1.攻撃性

攻撃というものは、大きく「反応的攻撃」と「道具的攻撃」に分けて考えられる。

「反応的攻撃」とは、脅威にさらされたときに動物がとる究極の反応だ。それゆえ、それ自体が目的として行われる。反応的攻撃性は「眼窩前頭前皮質の障害」「衝動/攻撃性障害」「小児における双極性障害」で顕著に見られる。だが、人は誰でもこの攻撃性をもっている。

「道具的攻撃」とは、金銭や地位など特定の目的に対して手段として行われる攻撃だ。多くの人は"道徳的社会化"によりこの攻撃性は見られなくなる。

サイコパスはこの両方の攻撃性を顕著に示す。

反応的攻撃性は普通の人もある程度示すのに対して、道具的攻撃はサイコパスなどに見られる独特の攻撃性だ。

 

では、なぜサイコパスは"道徳的社会化"が行われず、道具的攻撃性を示すのだろう。

 

2.情動障害

道徳的社会化などの情動学習には、他者に共感したり道徳推論をする能力がなければいけない。すなわち、情動が正常に機能していることが必須条件なのだ。

しかし、サイコパスは「情動障害」をもつために、道具的攻撃を学習するようになる。

一般に、「情動障害」のスコアが高い人は表面的に魅力的で、誇大的で、操作的であり、罪悪感や共感性、深い情緒的なつながりなどが欠けている。これはサイコパスの情動面における特徴だ。

「情動障害」のスコアが低い犯罪者に対して教育プログラムや職業訓練プログラムを受講させた場合は再犯率が下がるのに対して、「情動障害」のスコアが高い人(サイコパス)では再犯率がむしろ増加する。

このように、"道徳的社会化"などの情動学習に必要な”情動”に障害があるため、それを経験することがなく、代わりに彼らは道具的攻撃性を獲得し、サイコパスの兆候を示すようになる。

では、「情動障害」の根本的な原因とはなんだろうか。

 

3.遺伝的要因

多少サイコパスについて勉強したことがある人ならば、「眼窩前頭前皮質の障害」や「扁桃体の機能不全」が根本的な原因と考えるかもしれない。しかし、それでは答えになっていない。

前項でも述べたように、情動障害こそがサイコパスの特徴だ。たしかに、そうした認知レベルの障害の背景には神経・神経伝達物質システムの機能不全が存在する。

しかし、さらにその根っこを探ると行き着く先は「遺伝的要因」と「環境要因」だ。

つまり、「遺伝的要因」と「環境要因」によって「生物学的要因」が生じ、それが「認知的要因」に結びつき、結果的にもたらされた「情動障害」が彼らをサイコパスたらしめるのだ。

ただ、何でもかんでも「遺伝的要因」が直接的な原因と言えるわけではない。「人の財布を盗む」という”行動”に直接関与する遺伝子などない。(人の財布を盗む遺伝子?)

そういった行動は”学習”されるものであり、その背景に潜む情動障害に遺伝的要因が関わっている。この点に注意すべきだ。それについては遺伝的要因の関連が過去の研究から強く示唆されている。

 普通の人なら道具的攻撃を控えるようになるのに対して、サイコパスは情動障害をもつために道徳的社会化が行われず、道具的攻撃を手段として学習してしまう。その原因は遺伝子にあるのだ。

 

 

4.情動学習

「情動障害によって情動学習ができない」ことが何を意味するのか説明しよう。

  • 共感性が欠如しており、他者の悲しみに対する反応が弱い。また、表情や音声に伴う恐怖や悲しみの認知にも障害がある。しかし、怒り、幸福、驚きに対する反応については障害がない。簡単に言えば、サイコパスは他人が泣いたり恐怖している様子に心を動かされない。
  • エピソード記憶が情動による影響を受けない。あるネガティブな事象の視覚イメージがどの程度はっきりと記憶されているのか調べた実験では、健常被験者はそれについてよく思い出されるのに対して、サイコパスはそうではなかった。つまり、サイコパスは情動と記憶の結びつきが弱い。そのため、普通の人であればトラウマになるような経験をしても、平然と過ごすことができる。
  • 言語処理への感情入力が著しく減弱している。彼らは「お前を殺してやる」という情動的な言葉を「これはペンです」という中性的な言葉と同じように受け取り、投げかけることができる。
  • 道徳的推論の能力が低く、道徳観念に関する概念的知識にも乏しい。普通の人が道徳的にタブーとしていることについて、何がダメなのか直観的に理解したり道徳的に思考ことができない。これは道具的攻撃を一つの手段として学習してしまうことに関係している。

 

5.知性

高知能のサイコパスは道具的攻撃に頼らずとも、他の手段を学習することができる。

一般的に、サイコパスは平均よりもIQが低いといわれている。しかし、「サイコパスならばIQが低い」と考えるのは早計だ。IQ(知性)の高いサイコパスは道具的攻撃以外の手段を持ち合わせているため、情動障害をもっていてもサイコパスの兆候を示さないような一群がいると考えられる。彼らをサイコパスと呼ぶべきかはさておき、知性の程度がサイコパスの原因ではないことから、知性とは単に行動の表出に間接的に関与するものであると理解しておく必要がある。

 

 

結論

サイコパスは道具的攻撃性を顕著に示す

・その背景には情動障害が関わっている

・根本的原因は遺伝的要因と考えられる

・知性が高ければ道具的攻撃以外の手段をもつことができる

 

課題

・具体的にどの遺伝子が情動障害をもたらすのか

・その遺伝子と眼窩前頭前皮質扁桃体の障害との関係は

・このような生物学的基盤が認知システムに影響を及ぼすのか

・これらすべての知見をサイコパス治療法の確立へ

 

参考文献

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-