サイコパスを操作する

サイコパスから学ぶ

サイコパスとADHD

サイコパスADHDは高率に合併する。

 

これまでに何度か紹介したジェームズ・ブレア 著「サイコパス -冷淡な脳-」によると、著者らが行った研究により、サイコパス傾向をもつ子供の75%がADHDを満たすことが分かっている。

 

そこで今回は、ADHDサイコパスの関係性を明確にすることを目的に解説する。

 まずはADHDについて説明しよう。

 

ADHDは「注意欠陥・多動性障害」の略称である。

発達障害の一つであり、「相当の発達水準では通常みられない頻繁かつ重篤な不注意ないし多動・衝動性」と定義される。

 

多動性は「落ち着きがない、そわそわする」

衝動性は「思ったことをすぐに口に出してしまう、衝動買いをする」

不注意は「仕事でのケアレスミス、頻繁な忘れ物をする、時間管理が苦手、物事を順序立てて行うことが困難」

などの特徴がみられる。

 

ADHDについての仮説

次に、ADHDのもつ障害について、モデルを用いて理解しよう。

 

Cohenらによって提唱された「課題文脈モジュールモデル」は、ストループ課題などの遂行能力を説明する際に用いられてきた。

 

ここで、ストループ課題について説明しよう。

たとえば青いインクで書かれた””という文字について、インクの色を答えるときの反応時間は、緑のインクで書かれた””の場合に比べて長くなる。

この反応の遅れを「ストループ効果」と呼び、ストループ課題では色の同定が課題として与えられる。

 

ストループ課題には、2つの処理過程が含まれる。ひとつは「語の理解」で、もうひとつは「文字の色を同定すること」である。

 

ヒトは「色の同定」よりも「語の理解」についてより豊富な経験を持つことを考えると、語の理解の方が受ける刺激が多く、有力な反応となる。

(実際、””について「みどり」と”読む”ことは、「青」と”色を同定する”よりも容易だろう。僕らは「語の理解」の方が有力な反応だからだ。)

 

そして「課題文脈モジュールモデル」では、反応競合状態(有力でない反応(色の同定)を引き起こそうとする状態)において、「文脈モジュール」が課題に関連しない情報(語の理解)を競合から除外することによって、この葛藤を解消する。

 

つまり、ストループ効果をどの程度受けるのかは、過去の経験だけでなく、「文脈モジュール」がどの程度影響を与えているのかにもよること、そしてこのモジュールに機能不全があると、色の同定課題で障害を示すだろうということが、はっきりと予測できる。

 

さらにADHD課題要求モジュールの障害に関係していると仮定すれば、色-語干渉条件はもちろんだが、色-同定条件においても障害を示すと予測できる。

そして、実際にADHDでは両方の条件で成績が悪いこと(遂行機能不全)が示されている。

 

イメージとしては「薬を飲む必要があり、錠剤と水を入れたコップを持ってそこにいるのだが、錠剤は口に入れず手に持ったままで、水だけを飲み干してしまう」といったものだ。

 

課題要求(薬を飲むこと)に際して、課題要求モジュールが機能不全によって活性化せず、必要な反応(水と錠剤を一緒に飲む)が引き出されず、経験的に有力な反応(水を飲む)だけを行ってしまう。

 

対照的に、サイコパスにはこうした遂行機能不全はみられない。

サイコパスはストループ課題などでまったく障害を示さないか、むしろ受ける干渉が減少する。

 

さらに、ADHDは「右前頭前皮質-線条体システム」の機能不全に関連しているが、サイコパスの中核をなす扁桃体」の機能不全とは関連しないことが分かっている。

 

しかしながら、このように明らかな病理の違いがあるにも関わらず、ADHDは高率にサイコパス傾向を合併する。(前述のとおり、サイコパスの75%にADHDが認められる)

 

 

ここで重要になるのが、ADHDが合併するサイコパス傾向は「反応的攻撃」に関するものであるということだ。サイコパスに特有な「道具的攻撃」はADHDには見られない。

 

それでは、反応的攻撃に関する仮説を説明する。

 

反応的攻撃の認知神経学的仮説

結論から示そう。

「社会的応答逆転」に関連して反応を制御するのは、BA47である。

そして、サイコパスADHDはBA47の機能不全という点で共通することがある。

 

「社会的応答逆転」は次の例で理解できる。

あなたは机の上に足をのせる癖があり、それによってリラックスするとしよう。

あなたにとってその行動は「有力な反応」である。

ある日、上司のもとに呼ばれる。

そして、上司の机を見たとすると「有力な反応」が引き出される可能性がある。

しかしながら、健常者であれば、上司が怒る可能性を予測し、有力な反応(上司の机の上に足をのせる)を起こさないはずである。

 

この「有力な反応」を抑制するのがBA47であり、「上司の怒りの予期」という社会的な条件によって反応の逆転(応答逆転)が起こるので「社会的応答逆転」と呼ぶ。

 

BA47は反応的攻撃の調節にかかわっており、反応的攻撃の高い患者群では、BA47の機能が特に損なわれていることが明らかになっている。

 

最後に、ADHDサイコパスの因果モデルを比較することによって、共通点および相違点をまとめてみよう。

 

 

ADHDサイコパスの因果モデル

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サイコパスの因果モデル」:サイコパスにおいて、腹外側前頭前皮質の機能障害ADHDの衝動的攻撃要素(反応的攻撃)、反応制御課題の成績低下につながっていることに注目しよう。これこそ、これまでに説明してきた事柄の全貌である。(BA47はより一般化し、腹外側前頭前皮質として書かれている)

 

次に、ADHDの因果モデルを示す。

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ADHDの因果モデル」:ここでも、腹外側前頭前皮質の機能不全が関わっており、反応的攻撃、反応制御課題の成績低下につながっている。一方で、ストループ課題の成績低下に関与する「内側および背外側前頭前皮質の機能不全」はサイコパスには見られない。そのため、注意欠陥の特徴はサイコパスには表れないのだ。

 

サイコパス特有の「道具的攻撃」には扁桃体の機能不全が関与し、その因果ルートはADHDには存在しない。

 

これらより、少なくともADHDの「多動型」はサイコパス傾向(反応的攻撃性)を高率に合併することが予想される。一方で、サイコパスは「注意欠陥型」に特徴的な遂行機能障害を示さない。

 

 

以上がサイコパスADHDの関係性を示す仮説だ。

 

この因果モデルから示唆される課題は、「遺伝負因」によって生じる器質的な機能不全のメカニズムが完全には明らかになっていないということだ。

 

つまり、サイコパスの病理となる遺伝負因がADHDの「注意欠陥型」につながっている可能性はある。

 

たとえば、「ソシオパスの告白」の著者であるM.E トーマスは、サイコパスとしての自伝の中でADHDの「注意欠陥型」に特徴的な記述をしている。

 

さらに、ウィスコンシン大学のジョセフ・ニューマンは、サイコパス「注意欠陥モデル(反応調節仮説)」を提唱している。

 

このモデルでは、サイコパスは「罰-報酬に関する反応競合状態」において罰に対する注意が障害されているために、報酬に強く惹かれて他者の苦痛(一般の人では罰とみなされる)を無視した行動=反社会的行動をとる、という風に説明される。

 

このモデルは興味深いものの、「サイコパスは罰に対して注意を向けられないというよりは、罰から学習できない」という方が正しいと思われるような問題点があり、また、このモデル自体が現代の注意モデルにどの程度合致しているのかがはっきりしないという指摘もある。

 

いずれにせよ、サイコパスと「注意欠陥」の関係性については、現在のところ保留しておくべきだろう。

 

 

今回の説明を通して主張したいことは、ADHD反社会的行動に関与していることが過去の研究によって示されているものの、それはサイコパスに見られるものとは異なるということだ。

 

攻撃性や反社会性を「反応的攻撃」と「道具的攻撃」に分けて考える重要性は、今のところ一般的な認識にまで至っていない。

 

それではADHDについてはもちろんのこと、サイコパスについても誤解が生じるリスクがある。

 

今のところ明らかになっているのは少なくとも、ADHDサイコパスの集合が部分的に共有しているのは「反応的攻撃性」であるということが重要だ。

 

 参考

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-