サイコパスを操作する

サイコパシーの理解から対策まで

寛容で衝動的で利己的なサイコパスの脳

 

サイコパスは○○という領域が障害されている。」

という説明にも飽きてきた頃だと思う。

 

今回は、苧阪直之 編「報酬を期待する脳」を参考に、サイコパスに見られる主な障害領域である「眼窩前頭前皮質「内側前頭前皮質扁桃体の3つがどのような機能を持っており、その障害が何をもたらすのか詳しく解説する。

 

 

「不公平さを気にしない脳」

あなたとAさんにお金を渡します。

その分配額を次の3つの中から10秒で決めてください。

 

1.あなた:100円 Aさん:100円

2.あなた:110円 Aさん:60円

3.あなた:110円 Aさん:20円

 

 

これを3万人の日本人被験者に行うと、66.37%が1の「向社会的」、28.31%が「個人的、5.32%が「競争的」な選択をするという結果になった。

 

1番は、自分の利益を減らしてでも”公平性”を重視する「向社会的」な選択。

2番は、自分の利益を最優先する「個人的」な選択。

そして3番は、自分の利益を最優先し、ついでに相手の金額もできるだけ下げようとする「競争的」な選択だ。

 

 

このうち「向社会的」な人の意思決定中の脳活動を測定すると、彼らの扁桃体報酬の絶対差に相関して活動することが分かった。 つまりあなたの公平な選択は、扁桃体が ”不公平さ” に反応することで”直観的に”導かれたということを示唆する。

 

さらに「最後通牒ゲーム」において、被験者にベンゾジアゼピンを投与しGABA受容体の作用を亢進することで、不公平な要求を受け入れる頻度が増加し、扁桃体の活動が減少した。

 

 

サイコパス最後通牒ゲームをさせると、不公平な提案でも「自分の利益になるので」、その要求を受け入れるという傾向がみられていた。

 

この「個人的」な意思決定には、扁桃体の障害が関与していたのかもしれない。

 

 

「利他行動を認知しない脳」

この実験では、メインである「あなた」と実験者からあらかじめ行動を指示された被験者X、Y、Zで、3ラウンドで構成されたゲームを行う。

なお被験者は、得られたポイントに応じて謝金が支払われる。

 

1. 利得最大ラウンド

選択肢A

あなた:6000 被験者X:6000

選択肢B

あなた:6000 被験者X:6100

 

2.利他ラウンド

選択肢A

あなた:9300 被験者Y:6100

選択肢B

あなた:6000 被験者Y:6100

 

3.いじわるラウンド

選択肢A

あなた:2300 被験者Z:6100

選択肢B

あなた:6000 被験者Z:6100

 

被験者Xは選択肢B、つまり「利得最大的な選択(あなたに対する特別な意図がない)」をするように指示されており、これがベースライン(測定基準)となる。

 

被験者Yは選択肢A、つまり「利他的な選択(あなたの利得を増やそうとする意図がある)」をするように指示されており、被験者Zは選択肢A、つまり「いじわるな選択(あなたの利得を減らそうとする意図がある)」をするように指示されている。

 

この2つのラウンドで、「利他行動」と「いじわる行動」をされたときの「あなた」の脳活動が、ベースラインと比較してどう変化するのか測定する。

 

 

まず「利他的行動」を認知した時のみに見られた活動は、「内側前頭前皮質で最も顕著だった。

 

ラシュワースとマンスーリらによると、この「内側前頭前皮質」は「コンフリクトや予測誤差を含むエラーのモニタリングおよび、それを解消するための実行機能」に関与すると考えられている。

 

 

つまり被験者は、互恵的な環境において相手が自分に親切にしてくれたことについて、それが予想外あるために奇妙に感じ、そのコンフリクトを解消する行動調節として自分も相手に親切に対応したと考えられる。(本実験では、「あなた」も各ラウンドで「利他的な行動」をとるための手番が与えられる。)

 

一方「いじわる行動」を認知するときの脳活動には、「利得最大行動」を認知するときの脳活動との差は見られなかった。 つまり被験者は、いじわるされる環境においては、いじわる行動を「自然な行動」と認識していた可能性がある。

 

 

あくまでも推測だが、「内側前頭前皮質」が障害されているサイコパスは、相手の「利他的行動」を「予想外のこと」として認知せず、コンフリクトも発生しないため「恩返し行動」が引き起こされないと考えられる。

 

 

仮にこれが正しければ、「人生における問題をサイコパス的に解いてみる」という記事で「相手が自分に良くしてくれたこともまた、相手が単に ”そうしたかっただけだ” と受け取るのがサイコパス的な見方だ。あなたがそれについて”恩”で返そうが”仇”で返そうが、 ”そうしたければ” そうすればいいだけだ。」と書いたのはサイコパスの認知としては事実だと言えるかもしれない。

 

サイコパスは、相手から利他的行動を引き出す能力(=対人操作)に長けている。相手の利他的行動を”奇妙に”思わなければ(偶然の産物と思わなければ)人間には「利他的行動を導くための法則」が存在するのだと考えられるし、それを学習し相手を利用することで、彼らの「自己利益の最大化」という合理的な目的に貢献させることができる。

 

 

「衝動的な脳」

報酬には3つの分類がある。

生きるために不可欠な、食事や性行動などの「生理的報酬」

それを間接的にもたらす、お金などの「学習獲得的報酬」

そして芸術など、それ自体は生命維持に関与しない「内発的報酬」だ。

 

これら全てに「眼窩前頭前皮質が関与している。

報酬に関与する領域として最も有名なのは「線条体」であるが、「眼窩前頭前皮質」はより”長期的な”報酬や、それに基づく意思決定に関与する。

 

 

ワトキンスとダイヤンは、将来の報酬が現在の行動にどのように反映されるかを表す「強化学習モデル」を提案している。

数式は省くが、「将来に期待できる報酬 E」は、「報酬を得るのが ”遠い未来であるほどその価値を小さく見積もる” 心理的係数 γ(ガンマ)」の関数となる、といったものだ。

 

たとえば「あなたが今すぐ9万円貰える場合」「1年後に10万円貰える場合」では、どちらを選択するだろうか。

 

合理的に考えれば1万円多く貰える後者を選ぶのだが、前者を選ぶ人もいるかもしれない。この場合、その人のγ値は0.9未満となる。

 

10万円という価値が「心理的な係数γ」によって9万円未満の価値になってしまい、前者選択するというわけだ。

すなわち、γの値が大きいほど長期的な報酬に基づいて行動できる。

 

 

さて、このγの値をニューロンの発火率に当てはめてみると、「尾状核線条体の一部)」のγ値はきわめて0に近く、前頭前野」のγ値は0.5よりも大きい。

 

つまり僕らの神経系は、「短期的な動機に基づく行動計画を作成する系(尾状核などを含む大脳基底核経路)」「長期的な情報の蓄積をもとに行動計画を作成する系(大脳皮質経路)」を持っている。

 

それら2つの情報が上丘などの領域で統合され、運動命令となる。

このバランスが僕らの意思決定の個性を反映するのだが、「眼窩前頭前皮質「内側前頭前皮質が障害されているサイコパスの意思決定は、かなり前者に傾いている。

 

 

それもそのはずで、彼らはγ≒0の「未来の価値は無に等しい」という観念で動く。

彼らは常に「地球最後の日」を生きているのだ。

 

 

「利己的な脳」

 

「眼窩前頭前皮質は長期的な報酬を期待するだけでなく、複雑な内発的報酬にも関与する。それらを一気に見ていこう。

 

Rilingらは、他人と協力することに快を感じるときには、側坐核尾状核、前帯状皮質、「眼窩前頭前皮質」が活性化することを示している。

 

Mollらは、寄付などの利他的行動をするときには腹側被蓋野線条体、「眼窩前頭前皮質」で活性化が見られること、また、他人が不正行為に対して罰を与えられているのを見るときには (男性に限って) 側坐核、「眼窩前頭前皮質」が活性化することを示している。

 

Bartelsらは、母性愛について島内側部、前帯状皮質尾状核、中脳の黒質、外側前頭前皮質、「眼窩前頭前皮質」などで活性化が見られることを示している。

 

Kimらは、嫌悪刺激の除去に伴って「眼窩前頭前皮質」のみの活性化が見られることを示している。

 

一方で、愛する恋人に熱い思いを抱くときには、中脳の腹側被蓋野尾状核が活性化するものの、「眼窩前頭前皮質」の活動は見られていない。(Bartels et al.2008)

 

また、好意的評価を受けると線条体および「内側前頭前皮質」が活性化するものの、「眼窩前頭前皮質」については活動は見られていない。(Izuma et al. 2006)

 

 

これらの結果からサイコパスは協力、利他行動、他者が罰せられる様子、母性愛、嫌悪刺激の除去については何とも思わないのに、恋人に熱い思いは抱いたり好意的評価受けるのは喜ぶのか!」と結論付けるのは早計だが、少なくともそういった傾向があるとは考えられるかもしれない。

 

僕はむしろ、普通の人が利他行動や不公平な他者を罰そうとする行動が「報酬系」に駆動されているという事実が面白いと感じた。

 

 

それらは社会を健全に保つ上で必要な行動なのだが、僕らが道徳や美徳について語っている裏側で、脳は「何を快と感じるべきか」といった身も蓋もない議論と修正を行っているのかもしれない。

 

 

 

 参考