超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”サイコパスとは?”

 

これから9回にわけて、ジェームズ・ブレア 著サイコパス -冷淡な脳-」を ”高校生でも分かるレベルで” 超訳していこうと思う。

 

僕は、この本を隅々まで理解すればサイコパスに関する誤解はなくなり、正しい知識をもって「彼はサイコパスではないか?」と疑うことができるようになると信じている。

 

ただ、心理学や神経科学に慣れ親しんだ人でなければ、本書を一度読んだだけで理解することは難しい。そういうわけで、本企画を始めることにした。

 

 

まずは 第一章 「サイコパスとは?」から、サイコパスに関する誤解は一般人だけでなく、DSM(精神科医らが患者に対して精神疾患の診断を下すためのマニュアル)の中にも見られるという事実についてみていこう。

 

 

反社会性パーソナリティ障害

あなたは次の2人の人物に関するケースから、「どちらがサイコパスか」見抜けるだろうか。

 

ライアン

ライアンは30代半ばで、殺人罪終身刑に服している。

周りからは、少し幼く、ひょうきんだが真面目な大人という印象をもたれている。

他の受刑者や看守からは好かれていて、問題になるような行動記録はない。

 

犯罪歴は6回で、万引きで執行猶予の判決を受けた17歳が始まりである。

15歳頃から家や学校で問題を起こすようになったと両親はいう。

彼は門限を破り、よく嘘をつき、ものを壊し、家出をした。

学校でもしばしば喧嘩をした。

 

同僚とうまくいかず、解雇されることはあっても仕事は続けていた。

衝動的に金を使うので、足りない収入を補うためにマリファナをさばいたり、工場現場から資材を盗むこともあった。その結果、18歳で執行猶予の判決を受けた。

 

それでもライアンはなんとか仕事を見つけ、恋人と同性を始めた。

ふたりは頻繁に喧嘩をしたが、それなりに関係は安定していた。

彼は2回浮気をしたことがあるが、罪悪感を感じるとともに、恋人にばれることを心配して、2回とも浮気は解消した。

 

彼のアルコール依存症はひどくなり、ある晩、地元の酒場で喧嘩に巻き込まれた。

店の主人は、喧嘩をやめてライアンに立ち去るように言った。

普段のライアンなら喧嘩をやめて帰るところだったが、このときは相手をビンで殴り、致命傷を負わせてしまった。

警察が呼ばれると、ライアンはすぐに自白し、法廷でも有罪を認めた。

 

タイラー

タイラーは30代後半で、一緒に旅をしていた仲間を殺し、金を奪った罪で終身刑に服している。彼は薬物乱用者であり、かつ売人でもあった。

彼と話しをすると、短い間なら陽気で愉快な印象を与えるが、最後にはいつも看守と不穏になり、挑発的な態度になった。

いろいろな仕事に就いたが、数週間とたたずにやめてしまった。

自分の思う通りにならないとすぐ暴力をふるうため、いつも問題を起こしている。

他の受刑者たちは、彼に対して恐怖と尊敬の念をもった態度で接し、そうした扱いを受けることをタイラー自身愉しんでいた。

 

彼の逮捕歴は数ページに及ぶ。

9歳のときに起こした学校の備品を盗むというのが最初の犯罪である。

11歳のときには、金銭のゆすりを拒んだ同級生を溺れさせようとして逮捕された。

その行動について問われたとき、彼は笑いながら「そいつが俺より背が高いからさ。それに、事実を探られて教師が邪魔に入らないようにやったのさ。」と答えた。

 

タイラーは幼少期、青年期、成人期を通して、万引き、強盗、暴行、人質まで、あらゆる種類の犯罪を行ってきた。

彼は仕事を続けることができず、その代わりに、親しい知人もいないところで薬物売買、路上での窃盗、売春の斡旋などの犯罪をして生きてきた。

おなじ場所に数週間といることは滅多になく、頻繁に引っ越しをすることを好んだ。

とても気さくな感じにも見えるので、住む場所を提供してくれる人と知り合うことに苦労しなかった。

しかし、そうした取り決めも結局は暴力沙汰などで終わり、またやり直さなければならなかった。

 

タイラーは結婚したことはなかったが、同棲した相手は何人かいた。

いつでも「相手を夢中にさせて」からその女性のところに転がり込んだのだが、その点、彼は上手であった。

関係は長くても6か月程度だったが、どれも暴力と不安定性に満ち溢れていた。

同棲していても、他の女性と合ったりしたことは数えきれないという。

その一方、浮気をしたことはあるかと尋ねると、それはないと答える。

話に一貫性がないと指摘すると、矛盾はないと答える。

彼の言い分はこうだ。

「浮気など一度もしたことがないね。同時にふたつの場所にいることなんか不可能だからね。わかるだろう?」

 

現在投獄されている原因となった犯罪については、確たる証拠があったが、彼は法廷で無罪を訴えた。

今なお無罪を主張し、被害者やその家族への心遣いなどまったくない。

余生はずっと獄中で過ごすのだから、訴えても無駄だという話をしても、とても楽天的にとらえ、今にも釈放されるかのように話している。

 

 

反社会性人格障害(ASPD)

これまでの記事を読んできた読者なら、タイラーがサイコパスだと分かるだろう。彼は「金の為に」人を殺したり、「金をゆすったのがバレないように」同級生を溺れさせたりしている。これは、「ついカッとなって殺した」ライアンとは異なる。

 

さらに「表面的な魅力」を駆使して「その日暮らし」の生活を送り、自身の犯罪について聞かれたときには、「罪悪感のない」様子で「病的な嘘」をついている。

 

 

しかし、先ほど紹介したDSM-4によると、二人とも反社会性人格障害(ASPD)」という診断がくだされる。ASPDの診断基準は次のとおりだ。

 

  1. 社会的規範を無視する。逮捕の原因となる行為を繰り返し行う。
  2. 繰り返し嘘をつき、自分の利益や快楽のために人を騙す。
  3. 衝動性があり、将来の計画を立てられない。
  4. いらだたしさや攻撃性。喧嘩や暴力を繰り返し行う。
  5. 自分や他人の安全を考えない向こう見ずさ。
  6. 一貫して無責任である。仕事を続けられない、経済的な義務を果たさない。
  7. 良心の呵責がない。他人を傷つけたりしたことに無関心であったり正当化する。

 

このうち、3つ以上が該当する場合にASPDと診断される。

 

(厳密にはその人が18歳以上、かつ15歳までに「行為障害」の証拠があり、反社会的行動が「統合失調症」や「躁病エピソード」の経過中のみであってはならないという条件がある。 簡単に言えば「その人は昔から反社会的で、その傾向は他の精神疾患のせいではない」ということだ。)

 

 

サイコパス

 

サイコパスの起源は、クレックレーの研究にある。

著書 "The mask of Sanity (正気の仮面)" の中で、彼はサイコパスの診断基準として

 

「表面的な魅力、不安の欠如、罪悪感の欠如、信頼できないこと、不誠実、自己中心的、親しい関係を継続できないこと、罰から学ばないこと、情動の乏しさ、自分の行動が他人に及ぼす影響を考えられないこと、将来の計画が立てられないこと」

などが挙げられている。

 

ロバート・ヘアが、これに自らの臨床経験を加えて "サイコパシー・チェックリスト (PCL)" を開発した。その後、さらに改定を加えて(Revised) PCL-Rとなった。

 

 

PCL-Rは20の項目からなり、それぞれに0~2点の間で評定をつける。(合計0~40点)

30点を超えると「サイコパス」とされ、20点未満は「サイコパスでない」とされる。

 

このチェックリストを因子分析すると、「サイコパス」という概念は「尊大で虚偽的な対人関係」「感情の欠落」「衝動性 / 無責任」という3つの因子に分けられる。

 

因子分析は、チェックリストにある20項目のうち類似する項目を1つの因子にまとめる統計的手法のことだ。

 

たとえば「清涼飲料水」について因子分析をすると、「炭酸の強さ」「甘味」「香料」といった項目は「おいしさ」という因子に分離できる。「パッケージ」や「店頭での陳列配置」「値段」は「魅力」という因子になる。(この例は少し恣意的に思えるかもしれない。だが因子分析という手法自体、こうした恣意性を孕んでいることも覚えておこう。)

 

「3因子モデルで書かれたPCL-R」は次のようになる。

 

因子1「尊大で虚偽的な対人関係」=対人因子

1.口達者/表面的な魅力 2.誇大的な自己価値観 3.病的な虚言 4.偽り騙す傾向/操作的

 

因子2「感情の欠落」=感情因子

5.良心の呵責/罪悪感の欠如 6.希薄な感情 7.冷淡/共感性の欠如 8.自分の行動に対して責任がとれない

 

因子3「衝動的/無責任」=行動因子

9.刺激を求める/退屈しやすい 10.寄生的な生活 11.現実的・長期的な目標の欠如 12.衝動的 13.無責任

 

どの因子にも含まれない項目

14.自制心の欠如 15.放逸な性行動 16.幼少期の問題行動 17.数多くの婚姻関係 18.少年非行 19.仮釈放の取り消し 20.多種多様な犯罪歴

 

 

他にも「2因子モデル」や「4因子モデル」といったものもあるが、本書では「3因子モデル」がより適切である、という形で紹介されている。

 

しかし、多くの研究者は2因子モデルを採用しているため、これからは便宜的に第一因子「対人/感情面」(3因子モデルでの因子1と因子2) および 第二因子「行動面」(3因子モデルでの因子3)に分けて説明していく。

 

 

さて、こうしたサイコパスの概念を考えるメリットとは何か。

 

それは、反社会的行動へ至る人の中から、同じ疫学や特定の情動障害を共有している集団(=サイコパス) を同定できる」ということだ。

 

DSMによる診断では、単に「反社会的行動を取る人たち」という幅広い集団が同定されてしまう。つまり、疫学的に異なる(反社会的行動に至る原因が異なる) 雑多な集団を扱うことになってしまうのである。

 

「では、それをどう見分けるのか?」という問いについては、反応的攻撃および道具的攻撃を区別して考えるのが有用だ。

 

 

反応的攻撃と道具的攻撃

今回を通して伝えたいのは、「なぜ反応的攻撃と道具的攻撃に分けて考える必要があるのか?」という問いに対する答えだ。答えは既に書いてある。

 

そして僕らは、反社会的行動を示す集団のうち、それが道具的攻撃性による小集団」サイコパスと呼んでいるのだ。

 

 

2つの攻撃性について、簡単におさらいしておこう。

 

「反応的攻撃」は、思い通りにならなかったり、脅威にさらされる出来事をきっかけにして引き起こされる。この攻撃は、金銭を奪う、社会的地位を高める、など隠れた目的がなく始まるというのが重要だ。

 

対照的に、「道具的攻撃」は目的志向的なもので、何らかの望みを達成するために、道具として用いられる。

 

 

「本当にそんな区別が可能なのか?」と思うかもしれないが、既に妥当性が証明されていることを強調しておこう。

 

さらに道具的攻撃を行った人は再び非行に走りやすく、一方で反応的攻撃を起こした人ではむしろ道具的攻撃や非行が減少することが分かっている。

 

そして反応的攻撃と道具的攻撃は、異なる認知神経学的システムによって媒介されているので、それぞれを区別することは ”脳から見ても” 重要だ

 

 

目的志向行動(目的ために行動すること)は、何らかの報酬が期待でき、かつ罰が与えられないときに行われる。ほとんどの人はお金が欲しいと考えるが、そのために人を襲うことはまずない。

 

「道徳的社会化」によって、人は反社会的行動を行わないようになるからだ。

(これについては今後、詳しく説明していく。)

 

そしてサイコパスが示す道具的攻撃を説明するためには、「なぜサイコパスは社会化が達成できないのか」を明らかにする必要がある。

 

 

分類の重要性

ここで改めて、サイコパス」という分類をする重要性を指摘しておこう。

 

PCL-Rを用いる一番の意義は、「危険予測」における有用性だ。

つまりサイコパスの診断は「犯罪の予測」に利用できる。

犯罪を行った者に対して診断を下すことの多いASPDとは対照的だ。

さらに累犯との関連性について、サイコパスは有意にASPDを上回っている。

 

278人の犯罪者を対象にした国際的研究では、サイコパスの82%に再犯がみられ、そうでないものは40%のみであった。 同じサンプルについて、PCL-Rで高得点だったものでは38%に暴力的な再犯がみられたが、低いスコアのものではたった2.7%であった。

 

サイコパス群で年齢や犯罪歴をコントロールして補正したり、サイコパスでない群について同様のコントロールをしてみても、再犯率は下がらなかった。(つまりサイコパスであってもそうでなくても、再犯率に「年齢」や「犯罪歴」は相関しないということ)

 

しかし興味深いことに、「感情/対人面」の因子における得点をコントロールすると、「感情/対人面」の因子で高得点である者は、高率に再犯を起こすことが分かった。59%だったものが、86%になったのである。

 

同様に、この因子でスコアの低い犯罪者は、再犯防止プログラムに参加することによって再犯率が低下した一方、スコアの高い者はプログラムに参加しない場合よりも むしろ、高率に再犯を起こした。

 

 

サイコパスとは「情動障害」であり、それが究極の形へと発展すれば、極度な反社会的行動を繰り返す危険性がある。

 

こうした反社会的行動は「反応的攻撃」となって現れる場合もあるが、サイコパスにおいては、高度な「道具的攻撃」にも関与している障害であるという点で、特有であることが重要だ。

 

 

Question

  • ライアンとタイラーの2人について、ASPDの診断が下されるのは誰か。また、サイコパスの診断基準に当てはまりそうなのは誰か。また、その理由は。

 

答え:ASPDについては2人に当てはまるが、サイコパスの診断はタイラーにのみ当てはまるだろう。なぜなら、彼には情動障害にあたる因子1の特徴、「表面的な魅力」「誇大的」「操作的」「罪悪感の欠如」「共感性の欠如」などが見られるからだ。

 

 

  • PCL-Rを因子分析することによって、各項目は3つの因子に分けられた。それぞれどのようなものか。また、同じ「サイコパス」でもどの因子で高得点を取ったかによって人物像が異なってくる。因子1や因子2で特に高得点を取ったサイコパスは、犯罪についてどのような違いが見られるか。

 

答え:「対人 / 感情 / 行動」の3因子である。「対人 / 感情」因子でスコアが高かった者は、高率で再犯を起こす。

 

 

 

答え:反社会的行動をする集団の中から、ある特定の疫学に基づいた小集団を分離し、独特の「危険予測」が可能となる。(例:その集団においては、再犯防止プログラムは逆効果となる) サイコパスとは、まさにその小集団のことであり、「情動障害」とそれに伴う「道具的攻撃性」を顕著に示す。

 

あなたなりの答えがあれば、ぜひコメントで教えて欲しい。

 

 

最後に。

今回の企画を支援したい方は、次のリンクからどうぞ。

「サイコパス -冷淡な脳-」を高校生でも分かるレベルに“超訳”します。- polca(ポルカ)

 

あくまでもこの企画は「価値のある知識を分かりやすく広める」ことが目的で、営利目的ではない。それでも違法になるのかは知らない。いずれにせよ僕のことは、イケてるがマイナーな曲をコピーし、路上で披露しているバンドマン程度に思って欲しい。

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-