サイコパスを操作する

サイコパスから学ぶ

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”背景的情報”

 

今回は、サイコパスの「疫学」について検討する。

特に、性別による違いや知能、社会経済的地位(SES)との関連、そしてADHD統合失調症など他の精神障害に合併する頻度について考察する。

 

サイコパスの有病率

サイコパスの行動や情動の特性を人が初めて聞くと、知人にも似通った人がいることに気づく。そして、サイコパスとは重大な殺人犯やテロリストといった少数の人たちだけに当てはまる概念ではないと理解する。

 

DSM-4によると、一般社会における男性の反社会性人格障害(ASPD)の有病率は3%、女性では1%である。犯罪者を対象に調べると、男性は42%、女性では23%である。

 

サイコパスの有病率は、ASPDよりもずっと低い。

とはいえ、一般社会におけるサイコパスの疫学研究は少ない。

 

アメリカのある刑務所収容者の80%がASPDの診断基準を満たしたものの、PCL-Rによって診断すると、サイコパスの基準を満たすのは15%から25%だけであった。これより推定される一般社会での有病率は0.75%である。

 

サイコパスの冷淡で情動の欠如を示す成分(因子1)については男女差はないが、反社会的行動成分(因子2)については性差があるとの指摘がある。さらに、女性の因子1のスコアは再犯と有意に相関していた(r₌0.26)が、因子2は相関していなかった。

 

反社会的な行動障害については、情動障害という一次的な影響に加えて様々な二次的な影響(ジェンダーや体格差など)が関与するため、驚くほどのことではない。

 

 

犯罪傾向

犯罪率は、17歳でピークを迎え、成人に達してから急速に減少する。17歳における激増の原因は、周りの仲間のあまりに多くが何らかの反社会的な活動に関与するので、それが当たり前のように思えてしまうということがありうる。

 

ニュージーランドの調査によると、飲酒や身分の詐称など軽微な犯罪も含めると、何らかの非行や違法行為にまったく関与しない男性は7%しかいないことが分かっている。

 

反社会的行動が成人以降急速に減少することに一致して、ASPDの診断も同様の傾向を示す。ところが、889人の男性収容者を対象にした研究では、因子1の平均得点と分散を5歳おきに比較検討したところ、類似していることが分かった。対照的に、因子2の平均得点は有意に減少し、一方で分散は増加した。

 

簡単にいえば、情動障害は一生モノだが、反社会的行動は年齢と共に減少していく傾向があるということだ。

 

 

こうしたデータから、著者らは行為障害(未成年期の顕著な反社会的行動)には2つのパターンがあると考えている。それは「小児期発症型」「青年期限局型」である。

 

青年期以前から問題行動があった場合(小児期発症型)、成人してからも持続してそのような行動を取るという予測が立てられる。さらに小児期発症型の行為障害は、攻撃性がより著しいということが分かっている。(この話については、7章で詳しく説明する)

 

 

社会経済地位(SES)が低いと、反社会的行動の危険性が高まるといわれている。しかし、サイコパスに関してそのような報告は少ない。父親の職業について失業者から専門職まで7つの階級に分類して調べてみても、因子1、因子2のいずれにも有意な相関みられなかった。

 

ロバート・ヘアらは、IQとPCL-Rの総スコアおよび因子1のスコアとの間には相関がないことを明らかにした。一方で反社会的行動(因子2)の得点とは負の相関を示した。つまり、IQが低いほど反社会的行動が顕著になる。同様の傾向は、サイコパス傾向のある子どもにも見られる。

 

サイコパスはIQが高い」という都市伝説があるが、そのような証拠はまったくない。むしろ反社会的行動は、知能や教育状況の悪さと関連している。

 

 

合併症

統合失調症は暴力のリスク要因であると指摘されている。しかし、サイコパスとの合併は示されていない。統合失調症「背外側前頭前皮質の全般的な障害に関連するといわれる一方で、サイコパスにこの領域の障害は見られない。

 

不安障害や気分障害は、いずれも攻撃性のリスクの増大と関連している。たとえば、ASPDには不安障害がよくみられる(61%)社会恐怖PTSD(トラウマ)は、有意にASPDの診断率を増加させる。

 

一方で、不安の程度はサイコパスの情動障害の因子1と逆相関し、反社会的行動の因子とは正の相関を示した。そして、うつ病サイコパス因子は逆相関する。

 

こうしたデータからも、ASPDとサイコパスを明確に分ける必要性が示唆される。(この詳細ついては前回を参考に)

 

 

物質乱用障害(アルコールや薬物中毒)は因子2のスコアと相関するが、因子1とは相関しない。「サイコパスはアル中」というのは間違いだ。

 

サイコパスは高率に「注意欠陥・多動障害(ADHD)」を合併する。筆者らの研究でも、サイコパス傾向のある子どもの75%以上がADHDを満たすことが示された。これについては9章で詳しく説明する。

 

 

Question

  • 年齢・社会経済的地位(SES)・IQはいずれも反社会的行動とどのような関係にあるか。また、情動障害(因子1)とはどうか。

答え:逆相関する。つまり年を取るほど、高い地位に就くほど、そしてIQが高いほど、反社会的行動はみられなくなる。一方で、サイコパスの根幹をなす情動障害(因子1)とは相関がない。つまり、これらはサイコパスとは関係のない事象だといえるだろう。

 

答え:統合失調症とは相関が無い。不安障害や物質乱用障害は反社会的行動と関連があるものの、因子1とは逆相関する。ADHDサイコパスと有意に合併する。サイコパス傾向のある75%以上がADHDの診断を満たす。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-