サイコパスを操作する

サイコパスから学ぶ

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”サイコパスの機能的障害”

前回サイコパスに関する遺伝子と環境要因について説明をした。

今回は、サイコパスがもつ情動と認知の障害についてみていこう。

 

 

サイコパスは不安障害か?

サイコパスは不安を感じにくく、それにより反社会的行動が促進されるということを示すデータが数多く存在する。しかし、こうした知見とは矛盾するように、反社会的行動と不安には正の相関があった。(不安が高いほど反社会的行動も高くなるということ)

 

この矛盾の原因は何か?

それは、反社会的行動を「反応的攻撃」と「道具的攻撃」に分類していないことである。

 

実際に研究では、サイコパスにおいて不安の程度と冷淡さや情動欠如といった特徴は逆相関していた。(不安が低いほど、「冷淡さ」や「情動欠如」は高くなる。)

 

一方で、冷淡さや情動欠如といった特徴を統制して(同じ冷淡さや情動欠如を持つ人同士で比較して)解析すると、不安水準の高さと衝動性や行動上の障害との間には正の相関がみられた。(不安が高いほど、衝動性など行動上の問題が多くなる)

 

こうした知見から、反社会的行動をとる人達には、少なくとも二つの集団が存在することが示唆される。それは不安をあまり示さないサイコパス集団」と、不安水準が高まることによって反社会的行動をきたす第二の集団である。

 

 

 

サイコパスの脅威刺激への反応

サイコパスでは恐怖感情が低下していることを示す研究が数多く報告されている。

それらを証明する方法には、①嫌悪条件づけ ②恐怖体験の想像 ③驚愕反射 などがある。

 

①嫌悪条件づけ

嫌悪条件づけとは、不快な出来事と外界の出来事を結び付けて学習することである。サイコパスでは、嫌悪条件づけが障害されいる。

 

無条件に嫌悪をもたらすような不快な刺激を無条件刺激(US)と呼び、USには電気刺激などがある。

 

被検者は、電気刺激を受けると発汗する。USに対して無条件に(自律的に)起こる反応を無条件反応(UR)と呼び、ここでは発汗がそれにあたり、発汗の程度は皮膚電気反応によって測定できる。

 

外界の出来事としての条件刺激(CS)にはブザー音を用いた。CS(ブザー音)の5秒後にUS(電気刺激)を呈示することで、被験者がCSに対して条件反射(CR)を引き起こすように学習するかを調べた。(ブザー音を聞いただけで発汗するかどうか、つまり皮膚電気反応が上昇するかどうかを調べた)

 

あなたが被験者だと想像して欲しい。ブザー音がすると、その5秒後に電気ショックを受ける。そのうち、あなたはブザー音を聞いた後に電気ショックを受けることを学習するだろう。(嫌悪条件づけ) そして、ブザー音がなってから5秒、4秒、3秒...と近づくにつれ不安が高まり、手に汗をかくことだろう。

 

しかし、サイコパスではブザー音に対する皮膚電気反応(CR)が有意に減弱していることが示された。つまり、サイコパスでは嫌悪条件づけが障害されているのだ。

 

また、サイコパスに「家でひとりでシャワーを浴びているところに、誰かがドアから押し入ってくるのが聞こえてパニックになる」といった ②恐ろしい状況を想像しても、彼らの反応は著しく減弱していた。

 

 

③驚愕反射

大きな音や迫ってくる物体などの脅威刺激にさらされたとき、僕らの身体は不随意的に(無意識的に)反応を起こす。

 

たとえば、ホラー映画で怪物がクローゼットから突然飛び出してくる状況における反応だ。このようなシーンでは、怪物が飛びだしてくるまでに流れる「不気味な音楽」ネガティブな先行刺激として機能し、「そろそろヤバいな...」という予感と共に、音楽は脅威刺激に反応する脳のシステムを活性化し、驚愕反射を強める

 

ためしにホラー映画を無音で鑑賞してみると、怖いシーンに対する反応が大幅に弱くなることが分かるはずだ。これは、ネガティブな先行刺激を消去したためである。逆に、ホラー映画を好きな人と一緒に鑑賞する場合では、その人と居ることがポジティブな先行刺激となり、驚愕反射は弱くなる。

 

 

同様の枠組みを用いた実験により、サイコパスではポジティブな先行刺激によって驚愕反射が弱まる一方で、ネガティブな先行刺激による驚愕反射の増強は有意に少ないことが示された。(ホラー映画の恐ろしい音楽を聴いても、その後の驚きが増強されない)

 

 

サイコパスの情動学習

道具的学習とは、報酬を得たり罰を回避するために、特定の行動を学習することだ。この道具的学習の1つに、「応答逆転」の能力をテストする課題がある。

 

応答逆転とは、ある刺激に対して同じ反応をしていたのではもはや報酬は得られず、罰を受けてしまうことに気づき、その反応を変えることを学習することだ。

 

たとえば、最初はパチンコで勝ち続けていたものの、所持金が減っていくことに気が付き、パチンコをやめるという選択を取るのが「応答逆転」だ。

 

 

応答逆転の能力をテストする課題には「トランプ遊び課題」があり、被験者はカードを引くのか引かないのかを決めるように求められる。

 

最初は、カードを引く選択が強化されるように、カードを引くたびにお金がもらえるように設定されている。しかし、ずっとカードを引き続けていると、次第に報酬が得にくくなり、むしろお金が減っていくようになる。

 

つまり、はじめは10枚中10枚で報酬が得られていたものが10枚中9枚、8枚...と次第に減り、最後は0枚となる。理想的には、10枚中4枚しか報酬が得られなくなったとき、その人はカードを引くのをやめるべきである。

 

しかし、サイコパスはこの課題の成績が非常に悪い。繰り返し罰を受けてもカードを引き続けてしまい、お金をすべて失ってしまうこともある。

 

 

また、サイコパス情動記憶の障害をもつことも示されており、過去のネガティブな事象(親の死別など、思い出すたびに辛くなるような視覚イメージ)を思い出すことが難しい。

 

人は過去の失敗や恐怖体験をよく覚えているものだが、サイコパスでは、そうしたネガティブな情動は記憶に何の影響も及ぼさず、また過去の失敗を思い出しても、何も感じることがない。

 

 

サイコパスの共感反応

共感反応は①自律神経反応 ②表情認知 の2つから調べることができる。

 

自律神経反応

知人が電気ショックを受けている様子を見せると、大抵の人は狼狽するだろう。

 

そのときの自律神経反応を見ると、健常者では大きな反応が見られる。

しかしサイコパスでは、その反応が比較的減弱している。

 

 

また、下のような他者が苦痛を感じている写真をスクリーンに提示したときの自律神経反応を測定しても、サイコパスでは反応が減弱していることが示された。

 

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表情認知

表情認知のテストでは、情動的な表情や音声にマッチする情動語を答えるよう求められる。(この表情は恐れ、この表情は悲しみ、という風に答える)

 

その結果、サイコパス「恐怖」や「嫌悪」の”表情”認知に障害があることが示されており、また「恐怖」や「悲しみ」の”音声”認知に障害があることが示されている。

 

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サイコパスは、たとえ被害者が苦痛の表情や叫び声を聞いても、共感(同じような感情を追体験すること)ができないどころか、そもそも、ある表情や音声が恐怖を示していると気付くのが難しいのだ。

 

 

サイコパスの道徳的推論

これまでに紹介した「嫌悪条件づけ」「受動回避」「共感反応」は、子供が健全に発達

道徳的に社会適応するために重要な役割を果たすと考えられている。

 

サイコパスはこれらに障害をもつとするならば、道徳的推論にも機能不全があることが予測される。

 

 

「道徳/慣習識別課題」という課題では、被験者に道徳的あるいは慣習的違反についての物語が提示される。

 

道徳的違反とは、他者の権利や幸福への影響といった観点から定義される行動である。(たとえば、人を叩くこと) 

慣習的違反とは、社会秩序への影響といった観点から定義される行動である。(たとえば、授業中に私語をすること)

 

 

この2つを識別するための方法にはいくつかある。次の文章を読む前に、一度自分で考えてみて欲しい。「道徳的違反と慣習的違反は、どの点で識別できるだろうか?」

 

 

答えは大きく分けて3つある。

第一に、一般に慣習的違反より道徳的違反のほうが深刻だと判断される。 

 

第二に、道徳的あるいは慣習的違反の善悪は異なる理由に基づいて判断される。たとえば道徳的違反については、他者の苦痛が言及される。(人を叩くのがいけないのは、その人に苦痛を与えるからだ)

一方、慣習的違反については、その結果生じる社会的混乱が言及される(授業中に話すのが良くないのは、あなたは勉強をするためにそこにいるからだ)

 

第三に、これが最も重要であるが、その行動を禁止する規則がなかったとしても、健常者であれば道徳的違反は許されないものと判断する。(他人を叩くことを禁止する規則がなくても、やはりそれは悪い)

 

 

あなたの答えはどうだっただろう。もし区別できなかったら、あなたの道徳観はサイコパス的だと言える。(その人はサイコパスとジレンマの問題でも、迷わず5人をひき殺したのではないだろうか?)

 

 

健常者であれば3歳にもなればこれらの違反を区別できるのに対し、サイコパスは成人になっても区別することができない。また、道具的違反が悪い理由を説明する際に、被害者について言及することがはるかに少ない

 

 

Question

  • 一般に、不安水準の高さは反社会的行動に結び付く。しかし、サイコパスでは不安水準が低いにもかかわらず、顕著な反社会性を示すことがある。この矛盾の原因は何か。

 

答え:反社会的行動について「反応的攻撃性」と「道具的攻撃性」の区別がなされていないこと。不安の高さに起因する反社会的行動は多くの場合が「反応的攻撃」であり、その逆はサイコパスによる「道具的攻撃」である。すなわち、反社会的行動を示す人々には「サイコパス集団」と「不安水準の高い集団」の2つが存在する。

 

 

「不安水準の高い集団」にも様々な下位区分があるだろう。たとえばADHDのように基本脅威回路の「調整システム」である背側前頭前皮質に機能不全を有する場合(厳密には不安水準の高さというより、不安の上昇に伴う反応を調節する機能の問題)、あるいは自閉症や不安障害のように基本脅威回路の「脅威刺激レベル基準」を構成する扁桃体に機能不全を有する場合だ。

 

最近、新幹線の殺傷事件が取り上げられている。この二分法を採用すると、その殺人がサイコパス的ではないことは容易に分かる。実際、犯人は「自閉症」の診断が下されたらしい。しかしそれは「自閉症」の一次障害ではなく、二次障害と考えるべきだ。

 

まず、自閉症の診断基準に犯罪歴はない。彼らは確かに非社会性を有するが、それは特異なコミュニケーションスタイルや情動認知、過度なこだわりが一般社会と馴染みにくいことを指しており、一方で過度な暴力性や規範の無視といった反社会性とは異なる。彼らはむしろ社会規範に厳格すぎることすらある。

 

次に①自閉症は不安水準が高く、②軽度な不安から反応的攻撃を引き起こすリスクが高い(逃避行動が含まれることも忘れないように。)そして③その中の一部(恨みを持っている人、殺してはいけない理由が理解できない人など)は反応的攻撃性が反社会的行動として発露すると考えられる。自閉症は「不安の上昇」を媒介して反社会性が表れることが示唆されている。

 

 

サイコパス=犯罪者、アスペ=犯罪者、自閉症=犯罪者。」

よく聞くこれらの等式は成り立たない。いくら統計データを並べて「犯罪との関連がある」と主張しても意味がない。彼らの情動や認知の特性を理解し、犯罪に至るまでの合理的な説明が加えられて、初めて有意義となる。途中式を抜かした解答はゼロ点だ。

 

とはいえ、批判するのは誰にでもできることだ。今後の回では発達障害者、特にサイコパスを有意に合併するADHDについて、彼らが反社会的行動に至るまでの「因果モデル」を説明していこう。

 

 

  • 今回の内容から、日常生活においてサイコパス傾向の高い人を見分けるポイントを考えよ。

 

答え:「脅威刺激への反応性」からは、日常的な条件反応(CR)、すなわち「プレゼン前の緊張」や「ホラー演出への恐怖」を示さない人は脅威刺激に対する反応性が低い、あるいは嫌悪条件づけが弱い人だと思われる。

 

「情動学習」からは、情動的にネガティブな事象(失敗や罰)から学習ができず、同じ過ちを繰り返しているかもしれない。また、過去のエピソードを聞いたときには、その話は情動的に希薄な内容のように感じられるかもしれない。

 

「共感性」からは、ニュースや映画などで他者が苦しんでいる姿、悲しんでいる姿に共感する(同じような感情を追体験する)様子が一切見られないかもしれないし、あるいは表層的な共感を取り繕っているように思えるかもしれない。

 

「道徳的推論」からは、軽微な違反や浮気など、法的ではないが道徳的な問題について、彼らは罪や責任を感じる様子を見せないだろう。また「どうしてそれがダメなのか」ということについて、彼らは被害者の立場に言及することがないかもしれない。

 

言うまでもなく、知性の高いサイコパスはこれらを利用し、健常者よりむしろ活き活きとした感情を見せびらかすかもしれない。たとえば浮気が発覚したとき、申し訳なさを浮かべて「君のことを傷つけて悪かった...」と言うのはとても容易い。

 

しかし彼が「同じ過ちを繰り返す」というサイコパシーを操作できていなければ、あなたが彼の「表面的な魅力」を見破ることも、同様に容易いはずである。

 

 

これは持論だが、ある表現や行動について「何がサイコパス的か?」という問いに対する答えを仕入れておくことは重要である。その答えが多いほど他人の言動に動じなくなる。そして言動に動じなくなるほど、相手と適切な距離で接することが可能になる。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-