サイコパスを操作する

サイコパシーの理解から対策まで

超訳「サイコパス -冷淡な脳-」 ”反応的攻撃の認知神経学的仮説”

 

これまで反応的攻撃と道具的攻撃の区別の重要性を指摘してきたが、「そのような区別が本当に可能なのか」という疑いを払拭するためにも、これらが異なる神経メカニズムによって引き起こされるということを説明しておくべきだろう。

 

今回は「反応的攻撃のメカニズム」を解説し、次回は「道具的攻撃のメカニズム」を解説する。これを完全にマスターすれば、よりサイコパスの脳についてより理解を深められるだろう。

 

 

「反応的攻撃」は、哺乳類が脅威に面した際に示す究極の反応だ。

その反応には段階があり、脅威に対する距離によって段階が調節されている。

 

  • レベル1:脅威からの距離が遠い→ すくみ反応
  • レベル2:脅威からの距離が近い→ 逃走反応
  • レベル3:逃げられないほど近い→ 爆発的な攻撃(反応的攻撃)

 

通常、このような反応は脅威に対する適切な反応といえる。(サーベルタイガーに襲われたときに逃げたり攻撃しなければ、そのような種は滅んでしまうのだから)

 

しかし現代のように、さほど強い脅威がないような環境でも反応的攻撃が表出されてしまうと、それは不適応とみなされ、精神科のもとを訪ねる破目になってしまう。

 

たとえば、路上で肩がぶつかっただけで反応的攻撃を示すのは適切とはいえない。

 

 

このような爆発的な攻撃は、「基本脅威回路」のコントロールができなくなっていることに起因すると考えられる。では「基本脅威回路」とは何なのか、ということについて具体的に見ていこう。

 

 

基本構造

 

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まずは、横軸が脅威レベル(TL)、縦軸が活性水準(ABTCのグラフに注目しよう。これを見ると、脅威レベルが上昇するにしたがって活性水準が上昇し、それに応じた反応(すくみ、逃避、反応的攻撃) が引き出されるようになっていることが分かる。

 

その反応を引き出すうえで”最後の関門”となるのは「水道周囲灰白質(PAG)」であり、脅威シグナルは扁桃体を開始点として、視床下部を介してPAGへ伝達されている。

 

そのため、PAGに損傷がある場合、たとえ脅威刺激を扁桃体が感知しても”最後の関門”が崩壊しているので各反応は引き出されない。
 

 

次に、視床下部に注目しよう。

視床下部から下垂体へCRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)が放出され、次に下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が放出されている。

 

その結果、副腎からのコルチゾールの放出が増加しているが、この経路は視床下部-下垂体-副腎(HPA)経路」と呼ばれており、この経路はストレス/脅威に応答してコルチゾールの分泌を促すことで自律神経系を亢進し、逃げたり攻撃するのに必要な身体の状態を作り出す。(逃走・闘争反応)

 

最後に、扁桃体に注目しよう。

扁桃体から青斑核への投射は、最終的にノルアドレナリンの分泌を促す。ノルアドレナリンコルチゾールと同様に、逃走・闘争反応に関与する神経伝達物質である。

 

 

この脅威基本回路を調節しているのは、図の左上にある前頭前皮質「眼窩部」「内側部」などである。この制御システムが障害されると、脅威基本回路の調節ができなくなる。(”など”としたのは、背外側部や腹内側部も調節に関与していることが分かっているから)

 

実際、反応的攻撃性を顕著に示す患者は「眼窩部」や「内側部」に障害がみられたことを思い出そう。(前回を参照)

 

ここで重要な問いは、「眼窩部や内側部は、どのようにして基本脅威回路を調節しているのか?」というものだ。

 

 

基本構造の制御

眼窩部や内側部(そして腹内側部)は、少なくとも2つのプロセスで基本脅威回路の調節に関与する。

 

 

第一に、期待報酬を算出し、その期待通りであったかを評価する。

 

これまでの生活の中で、欲求不満に陥りイライラが爆発したために、反応的攻撃(八つ当たりや暴言も含め) が引き出された経験は誰しもあるだろう。

 

僕らは期待する報酬を得るために行動したにもかかわらず、それが得られなかったときに欲求不満となる。それが長く続くと、ついには反応的攻撃を起こしてしまうのだ。

 

この欲求不満を解消すべく機能するのが「眼窩部」「内側部」「腹外側部」であり、これらのシステムが障害されると、より欲求不満に陥りやすくなる。

 

 

第二に、社会的な認知に関与する。

 

「社会的応答逆転システム」と呼ばれるものがある。

このシステムは、次の2つの要素によって活性化される。

 

①社会的嫌悪刺激(とくに相手の怒り

社会的に認められない状況 によって活性化される。

 

たとえば、会社で上司にパワハラをされたときを考えよう。あなたはその上司を今すぐブン殴ってやると思うだろうが、そうすれば相手の「怒り」を買うことになるし、そのような行為は「社会的に認められない」。

 

このようなとき「社会的応答逆転システム」が活性化する。そしてあなたは「ブン殴る」という”応答””逆転”し、上司のご機嫌を取ったり、自分のデスクを蹴り飛ばす。

 

とくに眼窩部の外側、すなわち「外側眼窩前頭前皮質(BA47)」は、上司の怒りを「予期」したり「目にする」と活性化し、さらにBA47が「社会的応答逆転システム」を活性化し、反応的攻撃を調節する。

 

このモデルに合致して、反応的攻撃性の高い患者群では、BA47の機能が特に損なわれていることが明らかになった。彼らは上司の怒りを予期してもBA47が活性化しないため(=機能不全)、社会的応答逆転が引き起こされず、不適切な反応的攻撃性を示す。

 

 

 

ここで、反応的攻撃のリスク増大となる4つの可能性をおさらいしておこう。

 

環境による活性水準の上昇

反応的攻撃が起こるかどうかは、その時の脅威刺激レベルだけでなく、過去に受けた脅威レベルも関与する。

 

動物実験から、過去に脅威を受けたことによって”安静時の”基本脅威回路の活性水準が上昇し、反応的攻撃を引き起こしやすくなることが分かっている。

 

50℃の水と0℃の水では、どちらが沸騰しやすいだろうか?

僕らの基本脅威回路は、活性水準が1になると反応的攻撃を引き起こす(沸騰する)と仮定しよう。安静時の活性水準が0.5の人と0の人では、明らかに0.5の人の方が反応的攻撃を引き起こしやすくなるのは明らかだ。

 

この”安静時の”活性水準の上昇は、過去のストレスによって起こる。たとえば出生前ストレス(妊婦の喫煙やアルコール摂取など)、幼児期の愛情剥離慢性ストレス(過労など)、虐待、トラウマである。

 

これらが実際に及ぼす脳の影響は、ノルアドレナリンの放出増加からコルチゾール受容体の反応性増大、扁桃体の過活動までさまざまである。しかしこれは少し難しい話なので、別の機会に説明しよう。

 

遺伝的な活性水準の上昇

先ほど、過去ののストレスは基本脅威回路の安静時の活性水準を上昇させる「環境要因」であることを論じた。

 

しかし、このような変化に遺伝子が関与していても不思議ではない。

実際、うつや不安障害の人では扁桃体の過活動がみられ、これに遺伝的負因があるということには妥当な根拠がある。そして扁桃体は基本脅威回路の根幹である。

 

 

眼窩/内側部の障害による制御不良

これまで説明してきたように、眼窩部や内側部は基本脅威回路の「調節」を担っており、その機能が損なわれると反応的攻撃のリスクが増大する。

 

この制御システムの破綻に関連すると思われる精神疾患「間欠性爆発性障害/衝動・攻撃性障害」および「小児性双極性障害である。

 

 

セロトニン系の異常による制御不良

セロトニンは反応的攻撃性の調節に関わると考えられている。一般に、セロトニン受容体の活性を高めると攻撃性は下がり、活性を低めると攻撃性は上がる。

 

ネコやラットのセロトニンニューロンを破壊すると攻撃性が増大する。ヒトにおいても、セロトニンレベルの低さは反応的攻撃性に結び付くということが一貫して報告されている。

 

 

最後に、今回の話を「因果モデル」として図に表すと、次のようになる。

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これを頭に叩き込めば、反応的攻撃マスターになれるだろう(?)

 

 

Question

  • 基本脅威回路の図を参考に、扁桃体の損傷がどのような異常をもたらすかを説明せよ。また、PAGに損傷をもつ場合はどうか。

 

答え:扁桃体の損傷によって脅威シグナルがPAGに伝達されないため、反応的攻撃が引き起こされなくなる。また視床下部を介したコルチゾールの分泌、青斑核を介したノルアドレナリンの放出も阻害されるため、ストレス反応(自律神経系の亢進)も減弱すると考えられる。このような人は常に穏やかで、あらゆる脅威に対して冷静さを失わないだろう。

 

PAGの損傷では反応的攻撃が選択的に障害されるものの、ストレス反応は障害されない。このような人は、イライラしても暴力的にはならないタイプだろう。(どのようにして解消するのかは、前頭前皮質の機能の見せ所だ。)

 

 

  • 「眼窩部」や「内側部」は、二つのプロセスで基本脅威回路の調節に関与する。それぞれ説明せよ。

 

答え:第一に、期待報酬の算出および得られた結果が期待通りであったかを評価する。それが期待通りでなかったとき、欲求不満に陥り反応的攻撃が起こってしまうが、ここでも「眼窩部」や「内側部」は欲求不満を解消すべく機能する。

 

第二に、相手の「怒り」を予期することなどで活性化し、「社会的応答逆転システム」を活性化させることによって反応的攻撃を調節する。

 

 

  • 基本脅威回路のモデルを参考に、反応的攻撃性のリスクを増大させる可能性を4つ挙げよ。また今回の章を通して、日常生活で反応的攻撃を表出しないようにできることは何か。

 

答え:①環境要因による活性水準の上昇 ②遺伝的要因による活性水準の上昇 ③眼窩部、内側部の障害による調節機能の不全 ④セロトニン系異常による調節機能の不全 である。

 

日常生活においては、①期待報酬を高く見積もり過ぎないこと ②欲求不満に陥ったとき、適切な応答逆転の手段を身に付けること ③ストレスマネジメントをして活性水準を下げておくこと ④妊娠中の喫煙やアルコールの摂取を控え、子供に虐待やネグレクトをしないこと ⑤セロトニンの前駆体であるトリプトファンサプリメントを摂取すること ⑥瞑想によって前頭前皮質の制御機能を高め、扁桃体の反応性を低める などが挙げられる。

 

 

参考

 

サイコパス -冷淡な脳-

サイコパス -冷淡な脳-