サイコパスを操作する

サイコパスから学ぶ

”悪の人格”は最高のギバーになれるか?

 

ダーク・トライアド(DT)特性とは、邪悪な3つの人格、すなわち「サイコパシー」「マキャベリズム」「ナルシスト」の傾向を表す用語である。

 

主に心理学の研究に用いられる概念で、ダークトライアド・パーソナリティテストという評価スケールが存在する。臨床名ではない。(Dark Triad Personality Test)

 

端的には、サイコパシーは「冷淡な人格」、マキャベリズムは「目的の為には手段を選ばない主義・思想」、ナルシストは「尊大な自己愛をもつ人」と表現できる。

 

従業員としての資質

1951年から2011年までの間に報告された245のサンプル(N=43,907)を基に、「DT特性と職業成績/非生産的労働行為(CWB)の関連」をメタ分析した論文がある。[1]

 

これによると、職業成績の低下マキャベリズムとサイコパシー傾向に関連し、CWBはDT特性のすべてと関連する。CBWは従業員の”サボリ”や”不正”を意味する用語だ。

 

職業成績の低下がナルシズム傾向と関連しないのは興味深い。もっとも、職業成績がどのように評価されたのかは明らかでない。

 

 

”職業成績が高い人”は相対的に高い自己愛を持っているかもしれない。それが「尊大な自己愛」と呼べるかどうかは疑問である。一方、CBWとナルシズム傾向の関連は経験的にも納得できる。「こんな仕事はオレに相応しくない」とでも言いそうだ。

 

ナルシストには”傲慢型”と”繊細型”の2種類が存在する。恐らく対象になったのは”傲慢型”だが、彼らの「根拠のない自信」とそれを裏付けようとする「努力志向」が結び付けば、いずれの指標でもハイスコアを叩き出すだろう。

 

リーダーとしての資質

インターネットを用いた自己評価尺度によるN=3388の大規模な調査 [2]では、サイコパシー評価スケールの下位区分であるPPI-FS(恐怖心なき支配)スコアと、管理職やハイリスク職に就く程度に相関が示されている。

 

同様に他の研究 [3][4]では、ナルシズム傾向がポジティブ・ネガティブなリーダシップの両方と関連する”両刃の剣”であることが示されている。これはナルシズムに限らず、DT特性一般について言えることだろう。

 

より具体的には、”謙虚な”ナルシストのリーダーはフォロワーからの評価が高く、フォロワー自身の主観的・客観的評価のいずれも高かったという研究結果がある。[6] 先述した「根拠のない自信を裏付ける努力志向」は、まさに謙虚さといえるだろう。

 

もちろん、これらの研究は因果関係を示してはいない。つまり、DT特性が高いからリーダーになったのか、リーダーという地位がDT特性を高めたのか等は明らかでない。

 

 他者との相互作用

アダム・グラント 著 『GIVE AND TAKE』[5]では、我々を「ギバー」「テイカー」「マッチャー」の3つに分類し、それぞれの業績を評価した研究が紹介されている。

 

ギバーとはその名の通り、他者との関係において”与えること”を重視する。テイカーは”奪うこと”を考え、マッチャーは「恩返し」や「仕返し」により”公平性”を重視する。

 

詳細はこのブログが参考になる。

life-is-sparks.com

 

さて、この中でもっとも「成功」するのは誰か?

これは本書のメインテーマだが、それはギバーである。 

 

では、もっとも「失敗」するのは誰か?

実は、これもギバーなのだ。

 

「与える人」は確かに素晴らしい。

しかし、”カモ”になってはいけないのだ。

 

マッチャーは真ん中、テイカーはその上である。

 

DT特性は基本的にテイカー気質と関連するだろう。

そして、彼らの成功には”短期的かつ個人的”という特徴がある。

パイを奪い合う関係は持続不可能なのだ。

 

 

マッチャーは組織の大部分を占める。

特徴として、彼らはテイカーが存在下で「奪い合い」を始める。

理不尽なテイク行為を受けたマッチャーは疑心暗鬼に陥るのだ。

一方、テイカー不在の場合は「互恵関係」の組織を築くことができる。

 

組織の”色”は、マッチャーの「公平性の向き」で見極めることができる。

リーダーは競争を望まない場合、テイカーを排除すべきだろう。

また、ギバーはそうした組織に属さない方が身のためである。

 

 

「ギバーやマッチャーの成功は、組織内にテイカーが存在するかどうかで決まる。なので、私たちは自ら属する環境を”選択”する必要がある。」

 

...という結論は、あなたがギバーやマッチャー、すなわち「DT特性のない人間」と自負しているなら、とても受け入れやすいだろう。

 

悪は常に外部からやってきて、場を荒らして立ち去る”天災”のようなもの、と考える方が認知的負荷が少ないからだ。

 

この見方は半分正しいが、半分間違っている。

たしかにDT特性の高い人は不正を行ったり、それを容認する傾向が高い。これは最後通牒ゲーム」を用いた研究でも示されている。しかし同時に、DT特性の高い人がテイク行動を取るかどうかは、友情や相手の自尊心にも依存する。[7] [8]

 

つまり、ギブアンドテイクの是非は気質強度だけでなく、気質間の相互作用の問題でもある。マッチャーの「仕返し行動」が生み出す負の循環、”カモ”のギバーが背負っているネギ(無知,自尊心の欠如)を想像すれば分かりやすいだろう。

 

そのような人はテイカーの直接的被害者であると同時に、間接的加害者にもなりうる。一度テイカーに喰われたマッチャーやギバーは、次々に周囲を腐敗させる「ゾンビ」と化す。 腐敗現象を「天災」のように捉える人の多くは、実態としてはゾンビと何ら変わりない。あるいは腐敗にすら気づかないだろう。

 

 

サイコパスを操作する」というタイトルには、より集団的かつ長期的な成功を導く手段として、DT特性をどのように利用できるか?というテーマが込められている。簡単に言えば、Tウイルスワクチンを接種するわけだ。

 

 このブログでは、イカー(DT)一般にみられる「個人的かつ短期的な成功」は”失敗”とみなす。無益な公平性に縛られるマッチャーやカモのギバーも同様である。

 

”Tウイルス”はもちろん、”ゾンビ”を悪だと非難したり、不幸だと嘲笑するつもりはない。これは単なるゲームだ。このゲーム理論では、すべての人間は常に何らかの目的に沿って振る舞う「合理的な機械」として扱う。

 

つまり、私が立てる問いは「”より集団的かつ長期的な成功”を目的としたとき、最も合理的に振る舞うプレイヤーと最適条件は何か?」であって、「公正な善人として幸せに生きる云々」ではない。そのため、必要とあらばTウイルスやゾンビを容赦なく駆逐するだろう。(それらの利用価値についても考えようとは思う)

 

そして、この「目的の為には手段を選ばない」思想それ自体がマキャベリズムである。これまでの話をまとめると、ともかくゲームの勝利条件は気質と環境の相互作用に依存するらしい、というものだ。今後はそれを具体的に掘り下げていこう。

 

 

 

参考

[1] A meta-analysis of the Dark Triad and work behavior: a social exchange perspective. - PubMed - NCBI

[2]Leader emergence: the case of the narcissistic leader. - PubMed - NCBI

[3]The double-edged sword of grandiose narcissism: implications for successful and unsuccessful leadership among U.S. Presidents. - PubMed - NCBI

[4]Correlates of psychopathic personality traits in everyday life: results from a large community survey(free fulll text)

[5]GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 (単行本)

[6]Leader narcissism and follower outcomes: The counterbalancing effect of leader humility. - PubMed - NCBI

[7]Selective Fair Behavior as a Function of Psychopathic Traits in a Subclinical Population(free full text)

[8]No Regard for Those Who Need It: The Moderating Role of Follower Self-Esteem in the Relationship Between Leader Psychopathy and Leader Self-Serving... - PubMed - NCBI