サイコパスを操作する

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サイコパス研究 レビュー

The neurobiology of psychopathic traits in youths

Nat Rev Neurosci. 2013 Nov; 14(11): 786–799.

   <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4418507/>

 

要約

行動障害は、子供の環境を混乱させ、彼または彼女の機能を損なう、持続的な攻撃的または反社会的行動を特徴とする小児行動障害である。

 行動障害を持つ子供の一部はサイコパス的な特徴を持つ。 サイコパスの特徴は、2つの中核的な障害と関連しており、CU特性と衝動的 - 反社会的要因から成る。

1つ目は、他の個人の苦痛に対する共感的反応の減少。これは主に、苦痛の合図に対する扁桃体の反応性の減少を反映する。

2つ目は、意思決定と強化学習における欠陥であり、これは腹内側前頭前野線条体の機能不全を反映する。

 

遺伝的要因および出生前要因は、これらの神経系の異常な発達に寄与しており、動機づけに影響を与える社会的 - 環境的変数は、反社会的行動がのちに表出される可能性に影響を与える。

 

 

行為障害 (CD)患者は、ストレス手がかりに対する扁桃体活動の低下、意思決定にまつわる強化シグナルに対する線条体およびVMPFCの感受性低下などを示す。

基本脅威回路は「扁桃体-視床下部-PAG」であり、この反応性が高い場合には反応的攻撃性が増大する。 そのような人は、気分障害または不安障害の基準を満たすCD患者 (全体の40%)であるかもしれない。

対照的に、サイコパスでは扁桃体の活動性は低下している。

 

参考

Reduced amygdala response to fearful expressions in children and adolescents with callous-unemotional traits and disruptive behavior disorders.

Am J Psychiatry. 2008 Jul;165(7):920.

CU特性をもつ若者が、健常者およびADHDと比較して扁桃体の活動が減少していることを示した。また機能的解析では、CU特性のスコアと「扁桃体-VMPFC」の結合との間に負の相関を示した。  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18281412>

 

Amygdala hypoactivity to fearful faces in boys with conduct problems and callous-unemotional traits.

CU特性をもつ患者において、恐怖表情に対する右扁桃体の活動性低下を示した。  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18923070/>

 

The neural signatures of distinct psychopathic traits.

サイコパシーの「対人関係面」については、恐怖表情に対する扁桃体の反応性と負の相関があるのに対して、「ライフスタイル面」については、怒った顔に対する扁桃体の反応性と正の相関があった。  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22775289/>

 

 

CU特性は、認知的共感の低下とは関連しない一方、特定の情動的共感 (他人の恐れ、悲しみ、痛みと幸福への対応など) の低下と関連している。この機能障害は、苦痛の合図に対する扁桃体およびVMPFCの反応性低下と関連している (図)。

認知的共感において、通常はVMPFC、TPJ、PCCなどの活動性が増大するが、サイコパシーにおいても同様の活動がみられた。

 

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サイコパシーは強化学習および強化期待値の表現において障害を示す。

この意思決定における問題は第二因子に関連している可能性があり、ADHDにもみられる。この機能は、VMPFCおよび線条体における機能不全と関連する。

 

「情動的共感」

サイコパスは、怒りおよび嫌悪の表情を正常に認識している。

対照的に、彼らは ”苦痛の手がかり”、すなわち恐れ、悲しみ、痛みの表情認知に障害を示す。これは一貫しており、メタ分析でも確認されている。そして、恐怖表情を見ている際の扁桃体の活動が低下している。

 

サイコパス扁桃体による苦痛手がかりの処理が減少しているため、他人を傷つける行動への嫌悪感の減少をもたらし、その結果、彼らは目標を達成するために他者を傷つける (道具的攻撃) を行う可能性が高い。

 

参考

Deficits in facial affect recognition among antisocial populations: a meta-analysis

Neurosci Biobehav Rev. 2008; 32(3): 454–465.

反社会性の人物は恐怖表情の認識ができないことを示した。

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2255599/>

 

Not just fear and sadness: meta-analytic evidence of pervasive emotion recognition deficits for facial and vocal expressions in psychopathy.

Neurosci Biobehav Rev. 2012 Nov;36(10):2288-304

サイコパスが認識できないのは、恐怖や悲しみの表情だけでないことを示した。

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22944264/>

 

サイコパシーは、「ケアベース」の道徳的判断の形成、すなわち他人に危害をもたらすような判断に影響を与える。

ケアベースの判断は、被害者の苦痛に対する嫌悪感のある感情的反応、苦痛を引き起こした行動の表現、罪の価値を表VMPFCとを関連づける扁桃体に依存している。

 

サイコパスはケアベースの道徳的推論に障害を示し、個人的な費用で寄付することが少ない。そして、サイコパスの障害は、このケアベースの道徳的推論に選択的である。彼らはケアベースを軽視するが、慣習的および嫌悪ベースの違反に対する判断は健常者と変わらない。なお、嫌悪ベースの判断は島皮質の活動と関連する。

 

参考

Disparities in the moral intuitions of criminal offenders: The role of psychopathy.

サイコパスは「危害予防」「公平性」の支持の減少における分散のかなりの割合 (それぞれ19%, 16%) を説明したが、ほかの領域についてはそうではなかった。

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21647247/>

 

「情動学習と意思決定の障害」

サイコパスは、社会的強化因子に対する反応性の低下、嫌悪条件付け、受動回避学習、オペラントの消滅、逆転学習のプロセスの欠陥を示す。嫌悪条件付けの障害については、成人ではサイコパスにしか見られず、未成年ではCD患者にもみられる。

 

サイコパスは、結果(報酬または罰)に対する「刺激-反応 連関」の形成能力が欠如しており、扁桃体線条体、VMPFCの機能不全によるものと考えられている。

意思決定において強化結果情報を有効に用いるためには、①行動のフィードバックとして得られた報酬/罰の表現 ②行動を実行するかどうかを検討するときの期待値の適切な表現 が重要。

 

①については、予測誤差シグナルが必要であり、扁桃体線条体によって媒介される強化学習を促進する。

 

「VMPFC」は、受け取った報酬をエンコードする。サイコパスは、報酬に対するVMPFCの反応低下を示し,予測誤差シグナルの乱れを表している。

 

健康な成人では、正の予測誤差は線条体の活性と関連しており、サイコパスではこのシグナルが強くない。したがって、サイコパス強化学習がより少なく、より遅いと考えられる。

 

また,罰に対する反応がサイコパスと健常者で真逆である。すなわち、予想以上に悪い処罰は、通常、線条体活動の減少に関連している。しかしサイコパスでは、罰に対する予測誤差と線条体の活動に正の相関が示された。

 

報酬の予測因子となるような刺激に対して、その期待値とVMPFCの活動は相関する。サイコパスはこの相関が弱く、期待値情報を使用したり表現するのが難しく、意思決定の問題にかかわっていると考えられる。

 

参考

Association of poor childhood fear conditioning and adult crime.

3歳児での嫌悪条件付けの程度が、23歳時での犯罪を予測した。扁桃体およびVMPFCの機能不全と関連。

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19917592/>

 

 

嫌悪手がかりに対する扁桃体の反応性の低下,予測誤差および期待値に対する尾状核,VMPFCの反応性の低下をもたらす遺伝的変異は,サイコパスのリスク増大を導く.一方,脅威に対する扁桃体の反応性を増加させる遺伝的変異は,反応的攻撃のリスク増大と関連している.

 

双生児研究から,明らかにCU特性の遺伝性が示されている.サイコパシーと関連する可能性のあるSNPリストが作成されたが,いずれもゲノムワイド統計的優位性に達しない.これは,サンプル数の少なさに起因すると考えられている.(High Psychopathy 300人)

 

MAOA,5-HTTLPR, COMTなどのSNPが扁桃体の反応性の増加と関連していることが分かっている.ただし,これらの研究では道具的・反応的攻撃の区別がなされていない.

 

扁桃体の反応性「低下」に関連する遺伝子変異を調べた研究は少ない.

COMTrs4680多型はCU特性と関連しないことが示されているが,ほかの2つの研究では,脅威に対する扁桃体の反応性低下に関連していることが示された.

 

要約すると、CU特性への遺伝的寄与があるが、扁桃体の応答性の低下(すなわち、精神病的形質を支える可能性がある神経生物学的特徴)の両方に関連する特定の遺伝子変異体はまだ同定されていない。

 

対照的に、COMT、MAOA、5-HTTLPRの特定の変異体は、扁桃体の反応性の増加と攻撃の危険性の増加に関連する(これは反応性攻撃に特有のものである)。

 

参考

Evidence for substantial genetic risk for psychopathy in 7-year-olds.

高レベルのCU特性は強い遺伝的影響下にあり,高レベルと低レベルを弁別できることを示した.そして,高レベルのCU特性をもつ子供の反社会的行動は強い遺伝的影響下にあり,共有環境の影響を受けない.サイコパシーの分子遺伝学的研究は,CU特性にフォーカスすべきである.

貼り付け元  <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15877765>

 

 

環境要因については明らかになっていない.ただし,妊娠中の物質乱用はCU特性のリスク増大と関連していおり,出生前の環境要因が重要であることが示唆されている.

 

嫌悪手がかりに対する反応性の低下は,他人の苦痛に関心がなく,より悪い決定をくだす個人を生み出すと考えられる.しかしその欠陥だけでは,個人の「攻撃意欲」を高めることはできない.SESの低さなどの環境要因がそのような効果をもつかもしれない.

 

 

「Treatment」

CD患者に対しては,抗精神病薬が投与されている.アリピプラゾールはドーパミンD2受容体およびセロトニン1A受容体に作用するアゴニストである.

リスペリドンは,ラットのVMPFCにおけるドーパミンセロトニンノルアドレナリンアセチルコリンの細胞外レベルを著しく上昇させる.

 

サイコパスが示す機能不全のいくつかは,セロトニン作動性およびドーパミン作動性システムを操作することによって模倣できる.

セロトニンの枯渇は恐怖表情の認識を乱し,強化に基づく意思決定の課題(受動回避学習・逆転学習)のパフォーマンスを低下させる.

 

ドーパミンは強化のシグナリングにおいて重要であり,ドーパミンが枯渇することにより,強化に基づく意思決定タスクのパフォーマンスが低下する.ドーパミンのアンタゴニストは脅威刺激に対する扁桃体の反応性を低下させ,ドーパミンアゴニストは恐怖表情に対する扁桃体の反応を増大させる.

 

そのため,非定型抗精神病薬は,サイコパシー治療において有益かもしれない.ただし,副作用がある.

 

サイコパシーの遺伝的要因である,予測誤差および期待値情報に対する線条体およびVMPFCの応答性低下は,意思決定の障害につながる可能性があるものの,経験的に実証されていない.

 

扁桃体線条体,VMPFCは相互接続しており,ひとつの領域における早期の機能不全は,他の領域における機能不全に影響をおよぼす可能性がある.意思決定の障害によって,目標を達成できず,欲求不満になり,反応的攻撃性を発露する可能性がある.